『うん。ウチでみんなでご馳走やケーキを食べたり、歌を歌ったりするの。みんなっていっても、あと招待してるのはわたしの親友だけだし、ケーキはわたしが作るのよ』

「……えっ? 絢乃さんの手作りケーキ……ですか」

 彼女の話を聞いてみれば、やっぱりごく一般的な家庭でのクリスマスパーティーと変わらないようだった。それに、彼女の手作りケーキを頂けるというのも、スイーツ男子の僕にはものすごく魅力的だった。

『そうなの! 張り切って、美味しいケーキを焼くから! 桐島さん、甘いもの好きでしょ? だからぜひ食べてもらいたくて』

「憶えてて下さったんですね、僕がスイーツ男子だってこと。――もちろん出席させて頂きます! ケーキ、楽しみにしてますね」

『うん、期待に応えられるように頑張るね! お疲れのところゴメンなさい。それじゃ、また連絡します。おやすみなさい』

「はい、おやすみなさい」

 電話を終えた僕は、夢見心地だった。
 絢乃さんと知り合った夜、立派なゲートから先には入れなかった篠沢邸。あの豪邸に、僕が招待された……。しかも、想いを寄せる絢乃さんご自身から!

 クリスマスパーティーとはいえ、ホームパーティーなのだからスーツを着て行く必要はなさそうだった。が、普段着で行くというわけにもいかないだろう。

「ちょっと待て! 着るものどうしよう……」

 自分で言うのも情けない話だが、僕は私服のセンスも、物選びのセンスもイマイチよくない。
 こと物選びについては、学生時代に付き合っていた彼女の誕生日にとんでもないものをプレゼントして、彼女をドン引きさせたことがあったのだが、それはともかく。
 絢乃さんのお家ということは、当然〈篠沢グループ〉代表のお宅でもあるということだ。ドレスコードはないにしても、服装で恥をかくわけにはいかなかった。
 というわけで、少々不本意ではあるが、僕はある人物を助っ人として頼ることにした。

****

「――なぁ兄貴、この格好ってちょっと派手じゃねえかな?」

 クリスマスイヴ当日の夕方。僕は自分の部屋を出る前に、実家からわざわざ服選びに来てくれた兄に(わざわざ、というほど離れてもいないのだが)、これで何回目だとツッコまれそうなくらいしつこく念を押して訊いていた。

「お前、マジしつこい。クリスマスだろ? パーティーだろ? ならこれくらいの色着てってちょうどいいんだって。お前の服地味すぎ」

「そう……かなぁ……?」

 兄が僕のために選んでくれた服は、淡いオレンジのカラーシャツにアイボリーの二ット、そして黒の綿パンだった。