「そうなんですか……。秘書って大変な仕事ですね」
僕はそれまで、秘書という仕事に華やかなイメージしか持っていなかった。でも、仕えるボスによってはそれだけでない大変な面もあるのだと、この時初めて知ったのだった。
「うん、まあね。でも、桐島くんも秘書室に異動するつもりなんでしょ? これでイヤになったなんて言わないでよ?」
「はあ、大丈夫……だと思いますけど」
痛いところを衝かれ、僕はちょっと自信なく答えた。結局は不安よりも絢乃さんへの愛が勝り、今でも秘書という仕事を続けられているのだが。
「それより先輩、会社辞めるかもしれないって話はどうなったんですか?」
「ああ、あれね……。あの後室長に話してみたんだけど、『あなたに辞めてもらうわけにはいかない。あなたはこの会社に必要な人なんだから』って引き留められた。会長に万が一のことがあったら、私は他の幹部の人に付くことになると思う」
そう答える小川先輩は、少しつらそうな表情をしていたように思う。
「そうですよ、先輩! 先輩は僕にとっても必要な人です。僕が秘書室に入った時、仕事のやり方教えてもらわないといけないんですからね。……あっ、別にこれは恋愛的な意味とかじゃないですよ!? そうじゃなくてですね」
僕は小川先輩のことを異性として意識したこともないし、先輩の方が僕を男として見てくれていたかどうかも怪しい。でも、手のかかる弟くらいには思われているかもしれない。
……それはさておき、これだけは断言しておこう。僕はそれまでの過去の恋愛はともかく、絢乃さんに出会ってからは彼女に一途だった。否、それは過去形ではなく、もちろん今もである。
「……分かってるわよ、そんな必死に弁解しなくても」
「あー……、ですよねぇ……」
……そうだった。彼女はこの時点ですでに、僕の絢乃さんへの恋心に薄々感づいていたのだった。
「それより、こんなところで駄弁ってていいの? 早く仕事に戻んないと、またあの課長にイヤミ落とされるわよ?」
「…………はぅっ!? そうだった! それじゃ先輩、失礼しますっ!」
「――小川くん、君も早くおいで」
速足で総務課へ戻る途中、僕の後ろの方から小川先輩が会長に呼ばれ、「はい! ただいま参ります!」と答える声が聞こえた。
****
――源一会長の闘病生活が始まり、二ヶ月近く経とうとしていた。
十二月に入り、そろそろクリスマスシーズンというところ。僕はこの頃には絢乃さんと毎日のように連絡を取り合うようになっており、また本格的に秘書室への異動に向けて引き継ぎやら何やらでそれまでに増して忙しくなっていた。
僕はそれまで、秘書という仕事に華やかなイメージしか持っていなかった。でも、仕えるボスによってはそれだけでない大変な面もあるのだと、この時初めて知ったのだった。
「うん、まあね。でも、桐島くんも秘書室に異動するつもりなんでしょ? これでイヤになったなんて言わないでよ?」
「はあ、大丈夫……だと思いますけど」
痛いところを衝かれ、僕はちょっと自信なく答えた。結局は不安よりも絢乃さんへの愛が勝り、今でも秘書という仕事を続けられているのだが。
「それより先輩、会社辞めるかもしれないって話はどうなったんですか?」
「ああ、あれね……。あの後室長に話してみたんだけど、『あなたに辞めてもらうわけにはいかない。あなたはこの会社に必要な人なんだから』って引き留められた。会長に万が一のことがあったら、私は他の幹部の人に付くことになると思う」
そう答える小川先輩は、少しつらそうな表情をしていたように思う。
「そうですよ、先輩! 先輩は僕にとっても必要な人です。僕が秘書室に入った時、仕事のやり方教えてもらわないといけないんですからね。……あっ、別にこれは恋愛的な意味とかじゃないですよ!? そうじゃなくてですね」
僕は小川先輩のことを異性として意識したこともないし、先輩の方が僕を男として見てくれていたかどうかも怪しい。でも、手のかかる弟くらいには思われているかもしれない。
……それはさておき、これだけは断言しておこう。僕はそれまでの過去の恋愛はともかく、絢乃さんに出会ってからは彼女に一途だった。否、それは過去形ではなく、もちろん今もである。
「……分かってるわよ、そんな必死に弁解しなくても」
「あー……、ですよねぇ……」
……そうだった。彼女はこの時点ですでに、僕の絢乃さんへの恋心に薄々感づいていたのだった。
「それより、こんなところで駄弁ってていいの? 早く仕事に戻んないと、またあの課長にイヤミ落とされるわよ?」
「…………はぅっ!? そうだった! それじゃ先輩、失礼しますっ!」
「――小川くん、君も早くおいで」
速足で総務課へ戻る途中、僕の後ろの方から小川先輩が会長に呼ばれ、「はい! ただいま参ります!」と答える声が聞こえた。
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――源一会長の闘病生活が始まり、二ヶ月近く経とうとしていた。
十二月に入り、そろそろクリスマスシーズンというところ。僕はこの頃には絢乃さんと毎日のように連絡を取り合うようになっており、また本格的に秘書室への異動に向けて引き継ぎやら何やらでそれまでに増して忙しくなっていた。