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その十数分後、僕が運転する軽自動車は彼女の家である自由ヶ丘の篠沢邸のゲート前に着いた。夢のような時間はもう終わりだと、僕は自分に言い聞かせた。
「――桐島さん、送ってくれてありがとう! パパのことも、心配してくれてありがとうね」
助手席のドアを外から開けて彼女を降ろした後、篠沢家の外観を見上げた僕はその大きさに圧倒された。その大きな門の前では、僕なんてちっぽけな人間に見えてしまった。まるでかかっていた魔法が解けて、現実に引き戻されたように……。
彼女にお礼を言われたことは覚えているが、こんな僕にお礼なんて言わなくていいのに……と卑屈になってしまう自分がいた。
「……いえ。こんな僕でもお役に立ててよかったです」
僕は控えめに言い、彼女に会釈を返した。
きっと、彼女との接点はもうなくなる。僕の恋も、どうせ一夜の夢で終わるのだ。そう思った。
その先も彼女と接点を持ち続けるには、自分から連絡先の交換を持ち掛けなければならない。でも……、いいのだろうか? 彼女が快く応じてくれる保証はどこにもないのに……。そう思うとなかなか切り出せなくて、僕は玄関アプローチへと歩き出す彼女の背中を見送ることしかできなかった。
……けれど、彼女は突然踵を返し、僕の方へと戻ってきた。
どうしたのだろう? 忘れ物にでも気づいたのだろうか? 彼女が戻ってくる理由に、僕はまったく心当たりがなかったのだが。
「……ねえ桐島さん。連絡先、交換しない?」
彼女はほんのり頬を染めて、僕に連絡先の交換を求めてきたではないか!
「はい?」
僕は思わずうろたえた。僕の方から連絡先の交換を切り出すことをためらっていたのに、彼女の方からそれを求めてくれたのだから。それも、破壊力バツグンの上目遣いで。
もちろん天にも舞い上がりそうなくらい嬉しかったが、それと同時に「いいのだろうか?」という気持ちにもなっていた。
けれど、彼女は僕が困っていると受け取ったようで、僕からのアドバイスを言い訳にしてオドオドと弁解し始めた。上目遣いといい、そのテンパった様子の可愛さといい、僕のハートはもうノックダウン寸前だった。
とはいえ、決してそれが迷惑だったわけはなかったので、僕はその申し出を断るつもりなんてなかった。
「いいですよ、絢乃さん。交換しましょう」
彼女の弁解を遮り、嬉々として連絡先の交換に応じた僕に、彼女はおずおずと「ホントに……いいの?」と念を押した。念を押されるまでもなかったので、僕がもう一度頷くと、彼女は「お願いします」と言ってクラッチバッグからご自分のスマホを取り出した。