決戦の日。
 戦争の開始時刻は、午後の五時。
 晩秋の日没は早い。もう既に、暗くなり始めていた。

 私は、黄見さんの運転する車でこっそりと吾妻橋に来た。
 ちなみに、いまはまだ人間の姿だ。化術もそれなりに気力を使う。戦いに備えて、少しでも気力や体力を温存しておきたかった。
 黄見さんが結界を張ってくれているおかげで、私の気配は、鬼神にも天狗にも気づかれていない。

 吾妻橋周辺は、大層賑わっていた。
 屋台でも出ていれば、お祭りなのではないかと思っただろう。

 血気盛んな鬼神族と、みな一様に団扇を持っている天狗族たちが集結している。
 互いに数百名いる夜澄島の鬼神族と神参山の天狗族が勢ぞろいしているのは、異様な光景だった。

 吾妻橋の西側には鬼神族、東側には天狗族が控える。
 橋は、戦い開始まで渡れない。
 西側の先頭には、星夜が。東側の先頭には、仙の後ろに、大団扇で自身を扇いで宙に浮く永久花がいた。

 星夜の殺気が……すごい……伝わってくる。
 紅い……どこまでも紅く、すべてを燃やし尽くしてしまうかのような。

 こんなに離れた距離なのに、びりびりと、空気を裂くかのような殺気だった。
 私が修行をしたから、感じられるのだろうか……。
 でも、鬼神のみなさんや警察のひとたちもかなり緊張した面持ちだったから、みんなが感じられるくらいに、強い殺気なのかもしれない。

 一方で、星夜の殺気に紛れて、永久花の殺気も感じられた……。
 笑顔で浮いてはいるけれど。
 飛空永久花……相当、怒っている……。

 それだけでも壮観なのに、更に、人間たちも集結しているのだ。
 原則、人間は立ち入り禁止。避難指示が出る。
 だけど警察、救急隊に消防隊、テレビ局や一部の動画配信者など、特別な許可を受けたひとたちは、あちらこちらにいた。
 なんとも、ものものしい……。

 治療や作戦のために待機する鬼神や天狗、それに許可を受けた人間たちは、吾妻橋をすぐそこに臨む隅田(すみだ)公園に集まっている。

 隅田公園は桜の名所。春なら、桜がこぼれるように咲き誇るだろう。
 だけど、晩秋の隅田公園もとてもとても美しかった――見渡す限り一面に、紅葉(もみじ)が深く色づいている。