「動きはだいぶ洗練されてきましたね。では……実践といきましょうか」

 今度は夕樹がやってきて、戦いの練習。

「歌子、全力でかかってきて」

 これまでも、夕樹が強いと知っていたはずだけれど、実際に戦う彼女は本当にとっても強くて……。
 何度も何度も倒されて、アドバイスをもらって、そのなかでどうにか、戦いのコツを掴んでいった。
 夕樹のパワーにはかなわないから、私はスピードで戦う。

 やがて、安定して夕樹と戦えるようになってきた。
 とにかく私は夕樹の攻撃を避ける。
 すると、パワーを使う夕樹はだんだん消耗してきて――ほとんど互角になれることも、珍しくなくなってきた。

 ここまでで……二日……。
 あと、二日。

 そして、修行の六日目。
 夕樹が連れてきたのは、なんと――山華さんと氷子さんだった。

「山華様。氷子様。遠路はるばるありがとうございます」

 黄見さんが呼んだらしい……。
 なんでだろう?

 夕樹と戦う姿を二人に見せるように言われたので、私はそうした。
 二人とも、夕樹とそれなりに戦う私を見ると、感心してくれた。

「なんだ、あんた、強くなってるじゃんか」
「夕樹に向かっていけるなんて、すごいですね。犬の御姿で……」
「ね? 歌子、結構やるでしょ?」
「うん、気に入った! ごめん歌子、あんたが強くなったって聞いて、疑ってたんだけどさ」

 山華さんは、これまでに見たことない親しげな笑顔を向けてくれる。
 氷子さんも穏やかな顔を向けてくれた。

「あたしはあんたのことを誤解してたみたいだ。ただ守られるだけの理事長の贔屓かと思ってたけど、あんた、こんな短期間にここまで強くなって、夕樹に向かっていけるなんてさ。見直したよ」

 私が強くなったから、見直してくれる。
 さっぱりした性格のようだった。

 認めてもらえるのは、素直に嬉しくて――。
 自然と、こちらの頬もほころぶ。

「よし、協力してやるか!」
「ありがとうございます。山華さん――」
「山華でいいよ」
「わたくしのことも。氷子、と呼び捨てていただいてかまいません」

 そして、山華が教えてくれたのは――。
 狸の一族に伝わる、化術だった。

 化術を呪い持ちの私にも応用できないかと、黄見さんが呼んでくれたらしい。
 それは……つまり……。

「も、もしかして、ですけど……いつでも犬の姿になれるようにする――って、ことですか?」
「その通りです」

 黄見さんは肯定する。

「歌子様の場合は、化けるというより、化術を応用して自在に変化する――ということになりますが」

 山華は言う。

「狸でも狐でもないやつができるかなって族長に相談したらさ、身体が変化する存在なら、素質があるから出来るだろうって」
「ありがとう……そんな、狸の族長さんにまで相談してくれるなんて」
「大丈夫。あたしもあんたには強くなってもらいたいしね!」

 ありがたい……とっても。

 化術は……難しかった。
 自分の変身する姿を細かく思い描いて念じないと、変身できない……。

「犬の自分をよくイメージしてみて! 細かいところまで想像しないと、変身できないよ。あたしは化けた人間のこのすがたを徹底的にいつもイメージしてるんだ」

 犬の自分をイメージするって言われても、うまく思い描けない――。

 そんなとき。
 星夜の言葉を思い出した。

『おまえは可愛いな。もふもふで……白くて……水色の首輪がとてもよく似合っていて……抱きしめるのにちょうどいい大きさで……』

 星夜の言葉通りに、自分をイメージしてみると――。
 例の、強烈な予兆とともに。
 かっ、と全身が熱くなった。

 世界が小さくなる――ううん、私が縮んだんだ。

 満月の時でないのに、犬になった――。
 なれたんだ。