「宝剣をくわえて動き回れるようになりなさい。けっして、落とすことのないように。落とすとはすなわち、天狗たちに力を与えるということ。戦場では、終わりを意味します」
「人間の身体でも、ですか……?」
「だいたい、犬の身体を無視していたから、犬の身体となったときに上手く立ち回れないのです。貴女様は人間の身体と犬の身体、どちらのほうがより自由に動かせますか」
「……人間のほう、です」
「でしたら、まずは犬の身体に慣れることです。そのためには、常に犬の身体の自身をイメージすること。そして慣れることです」

 犬耳も尻尾もない期間に、剣をくわえて四つん這いで動き回るのには、抵抗があったけど……。
 強くなるためには、必要だったから、覚悟を決めた。

 私は口でくわえるには重い剣を持って、黄見さんの掛け声に合わせて、四つ足で走り回った。
 これがかなりの重労働で……。
 何度もへばっては床に崩れ落ちそうになったのだけれど、黄見さんはそのたび私を叱って立たせた。あんまりへばってると、棒で叩かれたりもした……。

 うう……つらい……。
 でも、星夜のためなら……!

 だんだん犬の格好でも自由に動けるようになると、次は、黄見さんがまきびしを持ってきて、どんどん投げてくる。
 全部避けられるようにならなければならない。
 これもなかなかきつかった……。慣れるまではまきびしに当たってしまって、痛いし。
 四つん這いで細かく動き回れるようになるまで、相当のエネルギーが必要だった。どうにか、すばやく動けるようになったけど……。

 ここまでで、三日――。
 天狗族との戦いの日まで、……あと四日。