その後、夕樹がやってきて、軽々と壁を壊してくれた。

「歌子! 黄見さんから話を聞いたよ、僕も応援してるからね! 歌子とこのまま一緒に過ごせた方が、楽しいもん!」

 夕樹の明るさは、やっぱり、とってもありがたい……。

 そして、修行の日々が始まった。
 星夜には秘密で――。

「歌子様。犬の御姿であることを前提に、修行をなさったほうがよろしいかと。貴女様は、人間の御姿でも周りの霊力を高めますが、どうも犬の御姿のほうがより霊力を高められるようですから」
「でも……それって、満月の前後しか戦えないってことですか? 天狗との戦いって、いつなんですか?」
「七日後です」

 もう、七日しかないのか……。

 それに。
 だとすると、私は、そのときには……。

「私は戦争のときには、人間のすがたのはずですけど――」
「修行が進めばわかります。まずは、犬としてお強くなってくださいまし。お話はそれからです」

 黄見さんは、私にとって急に厳しい存在になった――いわば戦いの師匠。
 修行は、覚悟をしてほしい、という言葉に(たが)わないものだった。
 黄見さんは、自身は強くないと言っていたけれど……戦いのコツはよく知っているようだった。

 まず与えられたのは、宝剣だった。
 霊力を高め、妖力を断ち切る宝剣で、夜澄島の宝物庫に保管されていたものらしい。

「あやかしの力も、霊力、妖力と言い分けるのはなぜだか、考えてみたことがおありですか」
「……ありませんでした」

 言われてみれば、たしかに……幽玄学院でも言い分けているんだけど……。

「このようにお考えくださいまし。霊力は、その本質が神々である存在の力。妖力は、その本質が妖しい存在の力。たいていのあやかしは、後者です。外道である天狗もそうです。しかし、鬼神は鬼になった――すなわち修羅道の呪いを受けた神々であり、その本質はあくまで神々。すなわち、妖力ではなく霊力を使いこなします。そして歌子様――貴女様も、本質は鬼神と同じ。畜生道の呪いを受けた神々です」

 私と鬼神は……本質が同じ……。

「私が使う力も、霊力――ってことですか?」
「そういうことです。この宝剣を携えていれば、鬼神と歌子様の霊力は高まりますが、天狗たちの妖力を遮断し――歌子様のお力が、無差別にあやかしたちの力を高めることを防げます」
「……わかりました」

 やっぱり、自分が霊力を使えるとか、ぴんとこないけど――。
 いまは、そんなことを言っている場合じゃない。

 宝剣を受け取ると、ずっしりと重みがある。
 歴史の刻み込まれていそうな、中くらいの大きさの日本刀。
 剣自体も重かったけど……。
 鬼神にとって、すごく重たい意味合いを持つものを、自分が受け取ったことは――さすがにわかった。