えっ……黄見さん?
 私は戸惑う。

 黄見さんはいつもの、本心の読み取れない微笑を浮かべながら、腰を折って格子ごしにひざまずく。

「ご機嫌麗しゅう、歌子様。少々お話したいことがございまして。よろしいでしょうか?」
「え、えっと……私、いま、夕樹を待ってて……」
「夕樹さんが、あたくしのところに来ましたの。夕樹さんは一緒に戻りたがっていましたけれども、あたくしがお断りしたのです。一度、歌子様と二人だけでお話をさせてくださいまし、と。……ふふ。悪いようにはいたしませんと、夕樹さんにもお約束しておいたから大丈夫ですよ」

 黄見さんに言われてしまっては……夕樹も、断れなかっただろう。

「可愛い御方――お強くなりたいのですか?」

 黄見さんは、目を見開き、真顔で――私をじっと見てくる。
 怖い……何とも言えない迫力が、満ちていたけれど。

 ……強くなりたい。
 その気持ちが、背中を押してくれて。

 私はその顔から視線を逸らさずに――。

「はい」

 はっきりとそう言って、うなずいた。
 黄見さんはしばらく、私の意志を確認するかのようにじっとこちらを見ていたけれど――。

「そうですか。てっきり、守られているばかりの御方と思っておりましたが、力の強き弱きとその意志は、また異なるもの……」

 黄見さんは、鍵を開けて檻のなかに入ってくる。
 外で見張っているひとに、鍵を手渡した。

「外から鍵をかけてくださいまし。そしてあたくしにお返しください。更なる結界を張ろうと思いますが、よろしいですね? 無論、鍵はきちんと御守りいたしますゆえ。……プライベートなお話ですので、大事(おおごと)になさいませんように。ましてや若き御当主様にお知らせする必要もないことです」

 もちろんです、とそのひとは言って頭を下げ、恭しく鍵を受け取り、鍵をかけ、黄見さんに返した。
 黄見さんの影響力はすごい……。
 表向きの立場は使用人頭だけれど、黄見さんは夜澄島では確かに星夜の次に――場合によってはそれ以上に影響をもつ存在なんだと、私ももはや知っている。

「では」

 黄見さんは立ったまま――空を切るように右手を水平に動かした。
 檻の壁と格子が……夕焼けのような色に染まる。
 半透明の夕焼け色――格子の外の景色も確かに見えるのだけれど、それは、夕焼け色のガラスを通した景色のようだった。

「これで、あたくしたちのお話は外には聞こえません。ではお伺いしましょうか。歌子様。貴女様が力を求める、そのわけを」
「えっと……」
「結界を張っているから申し上げますが。あたくしは、貴女様は実家にお帰りになりました方が、幸せだと思っておりますのよ。……けれどもお強くなりたいのだと、お聞きしましたので。……お力を貸すのだとしても、まずはそのわけをお伺いしませんと」

 黄見さんがどういうつもりなのか測りかねて、怖くないと言えば嘘になったけれど――。

 私は……説明した。
 緊張したけれど……可能な限り、心を強くもって。