夕樹は、暮葉さんの直後にやってきた。

「ごめん、歌子……僕……天狗のやつらに、まんまと騙されて。歌子をあんな目に遭わせてっ……」

 格子を両手でつかみ、夕樹は、ぼろぼろと涙を流した。

 こちらこそ……申し訳なくて、申し訳なくて。
 私が弱いせいで……夕樹にも、つらい思いをさせてしまった。

 私は夕樹のそばに寄り添って――犬の身体では悲しみで涙を流すことはできないけれど、心のなかでは、一緒に泣いた。
 胸のあたりの一番柔らかい毛を、夕樹にくっつけて……。

 その後、デジタルメモでも伝えた。
 こちらこそごめん、って……。

「歌子……」

 夕樹は、またしてもぼろっと涙を流して。
 でもそれを、手の甲でぬぐって――。

「……かならず僕も天狗をやっつけるから」

 夕樹も天狗族との戦争に行くのか――。
 よく考えれば当たり前なのかもしれないけれど、……私は、衝撃を受けていた。

 普通にしていれば、人間の高校生と変わらないように見える夕樹。
 でも。当たり前のように、戦う日常を生きている。

 鬼神だから……。

 夕樹は、毎日私のところに来てくれた。
 鍵は黄見さんが管理しているから、鍵を開けることはできないけれど……。
 いろんなことを話しかけてくれて、違う味の骨ガムを差し入れしてくれたり、おすすめの動画を教えてくれたりした。

 友達の優しさが……しみる。

 一方で、黄見さんは。
 結界の手入れもあると言って、毎日かならず二回、訪れはしたけれど――私に話しかけてくることは、ほとんどなかった。

 私のお世話は、やっぱり他のひとにさせて。
 ただあの薄い微笑を浮かべて、やたらに丁寧な挨拶をして、あとは距離を取って控えているだけだった。