吾妻橋――私の家からもわりと近いから、知っている。
 隅田川にかかる朱色の橋。
 浅草寺の雷門(かみなりもん)からもすぐ近く、浅草の中心地にかかる。

「鬼神の一族の決定をお伝えします。貴女様には、天狗族との決着がつき次第、夜澄島で暮らす許可を取り消し、実家にお帰りいただきます。……貴女様がおられることで、天狗たちにはアドバンテージを与えてしまいました。愛する者はやはり弱みとなる。おわかりいただけますね、歌子様。……星夜様がいくら貴女様のそばにおられることを望んだとしても、こればかりは、一族の決定として覆せません」

 それは……仕方がない。
 私はあきらかに、星夜の弱点となっている……。

「お姉様にも連絡しておきましたよ。何が起こったかもご報告いたしました。お姉様もご家族全員も、今すぐに帰ってくるようお望みだそうです。そんな危険な目に遭う必要などないと」

 お姉ちゃん、お父さん、お母さん、寿太郎……。
 ごめんなさい。
 心配させてしまって……。

「現状で歌子様を家に帰してしまえば、歌子様のみならずご家族にも危害が及ぶ可能性がありますので。天狗との戦いの決着が着くまでは我々に歌子様をお預けいただくようご説明申し上げましたが、お姉様を説得するのは相当大変でしたよ。……貴女のことを必死で守ってきたのです。当然でしょうね」

 暮葉さんは、顔色ひとつ変えずにそう言った。

「……では、吾妻橋の決戦で結論が出るまでは、歌子様はここにいらしてください」

 暮葉さんは、失礼します、と事務的に言って去っていった。

 鬼神族の決定は……もっともだ……。
 もしその決定がなくとも――私は、自分から言い出していただろう。
 実家に、戻りますと。
 ここを去ります、と……。

 私はもう、ここにいる資格はない。
 出ていかなければ……筋が通らない。

 星夜と離れる。
 これから、一緒には、暮らさない。
 そう考えると自分でもびっくりするほどに、胸が苦しくなったけれど――。

 でも、自業自得だ……。
 弱い私が――いけないんだ。

 そして、もうひとつ、すごく――苦しいことがあった。

 ……星夜……。
 本当に、天狗族と戦争をしてしまうの?

 本当は、争いが嫌いなのに。
 他人を傷つけたくはないのに――。

 私のせいで……。
 戦いの道を、突き進んでしまうの?