どれだけの時が経ったのだろう……。
 意識が朦朧としてきた頃―。

 そんなとき。
 轟音がして、紅い光とともに、倉庫の扉側の壁が破壊された。
 そこに立っていたのは――真っ黒な着物を着た、……星夜だった。

 わん、と私は思わず星夜を呼んで鳴いた。

「あら星夜。来てくれたのね。意外と早かったじゃない、幽玄学院から、すぐに来たのね」

 星夜は、返事をしない。

「わらわのプレゼントした、このわんちゃんの可愛い可愛いいじめられ動画はどうだった? 楽しんでもらえたかしら?」

 星夜は静かに、永久花を見つめる。
 おそろしい無表情で……。
 その静けさとは対照的に――右手の紅い球は、みるみるうちに巨大になって、距離が離れているのに熱さを感じ始める。

「約束通り、ひとりで来てくれたのね。でも力を使うのは約束違反よ? じゃあ、取引しましょうか、この子を返してほしければ鬼神族は天狗族のしもべになるのね――」
「……取引? 永久花、貴様はつくづく笑わせてくれるな」

 星夜は、からからした声で、高笑いした。
 そしてふっと真顔に戻ると、天狗たちを――これ以上ない殺気をもって、睨みつける。

 天狗たちが何人か、ぞくっとしたような表情を見せた。

「ひとりで来たのは、他の者に業を背負わせたくなかったからだ」

 ゆらりと――星夜が背後に背負う影が、大きくなったかのような錯覚を覚える。

「貴様ら全員皆殺しだ。歌子を苦しめたこと、地獄で後悔し続けるがよい」

 その手の紅色の球は――どんどん、大きく、……まがまがしくなっていく。

「……永久花様。まずそうですよ。普段よりも霊力が強いです」

 おつきの天狗が言う。
 だけど、永久花は焦っていないようだった。

「大丈夫よ。星夜って最後の最後はとどめを刺さないの」
「それですよ!」

 別のおつきの天狗が、青ざめた。

「躊躇がなくなってるんです! 雨宮星夜は戦いの才能自体は、先代以上とも言われています。それなのに、かの者がこれまで我々と互角だったのは、ひとえに、心が先代の長ほど血に濡れていなかったからです、先代の長は心も修羅でしたから――」
「だから、なに? 急に、あの星夜が強くなったっていうの? ――子どものころから修羅の心を持てないってみんなに言われてきた星夜が?」
「とにかく永久花様、あの力を……真正面から受けたら……我々は壊滅してしまいます! ここは撤退いたしましょう!」