「永久花!」

 建物の扉がガラガラと空いて、年輩の男性――天狗族の長である飛空仙が、おつきの天狗たちと共に慌ただしく入ってきた。
 私に視線を向けた後、永久花に視線を移す。

「夜澄島の白犬(しらいぬ)をさらってきたと聞いたが、(まこと)だったようだな……。おまえはまた独断で! 騒ぎばかり起こす」
「あら、お父様、騒ぎを起こすのが天狗道の神髄のはずよ。お父様はお力も気も弱くていらっしゃるから、あんまりわからないかもしれないけどね」
「……おまえは……生意気ばかり……」
「鬼神族と決着をつけようってときに、こんな異分子が現れて困っていたのは事実よね。ねえお父様。わらわに任せて。そして、約束してちょうだい。天狗族が修羅の鬼神どもを配下に従えたら、今度こそわらわを天狗族の長にするって」
「……鬼神どもを配下にすることなど、できるのか」
「できるわ。わらわの、長としての最初の仕事よ。お父様は安心して引っ込んでいて?」

 仙は、深くため息をつく。

「……もし本当に、鬼神どもを打ち負かすことができたそのときには、考えてもいい」
「そう? その言葉、覚えておくからね。今にわらわにそんな偉そうな口をきけなくなるのだわ、お父様」

 仙はうんざりした様子で、倉庫を出て行った。

「さて、うるさい爺も黙らせたし。わんこちゃん――ちょっと、役に立ってもらうからね?」

 永久花はにんまりと笑って、壁の鞭を――手に取った。

「どうも星夜は犬のしつけもできてないようだから。わらわが代わりにしつけてあげる」

 永久花は、鞭を手に、一歩一歩、近づいてくる。
 にやけた天狗族たちが三人、テレビの撮影に使われるようなビデオカメラを手にして近づいてくる……。

「可愛い可愛い飼い犬が、苦しんでいるところを見れば。星夜はすぐに――助けに来たくなるはずだもんね?」

 ……いやだ。いや。
 怖がっているすがたなんて、見せたくないのに。
 星夜には、こんなすがた、絶対に見られたくないのに。

 私の全身の毛は逆立ち、呼吸が荒くなって、心臓はいまにも張り裂けそうだった。

「さあわんちゃん。まずは、おすわり」

 ……いやだ!
 私はわんと吠えて、永久花に噛みつこうとしたけれど――。

 無駄だった。
 永久花の手にした鞭は私の背に炸裂して――経験したことのない痛みに私は思わずぎゃんと鳴いてひっくり返り、同時に、天狗族のカメラマンがピッという電子音とともに映像を撮り出したのだった。