連れて来られたのは、神参山だった。

 夜澄島と同じく、神参山についても社会の授業で教わった。
 東京都の西、八王子(はちおうじ)市にそびえる標高600メートルほどの山。
 八王子市の高尾町(たかおまち)という場所にあり、高尾山(たかおさん)とも呼ばれている。
 昔から霊山とされてきた山で、天狗ともゆかりが深いらしい。

 浅草から神参山まではそれなりに距離があるのだけれど、天狗たちの飛翔するスピードはものすごく速かった。
 それに加え、空中ではまっすぐに進むことができる。
 車や電車よりも、ずっと速かった。

 私の身体は永久花に掴まれているだけで――ここで手を離されたら、今度こそ生きてはいられない。
 足下には、ミニチュアよりも小さなサイズに見える東京の街並み……。
 心臓がばくばくして、吸い込む息が痛いほどの恐怖を感じたけれど、私はただ大人しくしているしかなかった。

 神参山に到着すると、息つく暇もなく、倉庫のような建物に連れて行かれる。
 コンクリートの冷たい、薄暗い空間……。

 美男美女たち――天狗族が、ぞろぞろといっぱいやってくる。
 そのなかには零もいたし、少し遅れて、流や水も来た。
 夕樹、それに山華さん、氷子さん……大丈夫だろうか。

 天狗たちを背後に控えさせ、飛空永久花は鼻歌を歌いながら、当たり前のように私の首輪に鎖を通し、木の杭につないだ。

「これでよし」

 永久花は満足そうに、腕組みをして私を見下ろした。

 ボロボロの餌皿に、水の皿。薄汚れた犬用のトイレ。
 そして壁にかけられた、棒みたいな形をした、しつけ用の鞭。

 いやな予感しかしない……。

 どうしてこんなことするんですか。帰してください。
 言葉で、そう問うこともできなくて。

 せめて永久花に噛みつきたかったのだけれど、この鎖……短くて、ぴんと張っても永久花に近づけない……。

 私は抗議の気持ちを込めて、四つ足で立ったまま、きゃんきゃんきゃんと鳴いたけど――。

「あはは。鳴いてる。おかしいわね!」

 全然、響いてない……。
 彼女は馬鹿にしたように笑って、私を見下ろすだけだ。