「ねえ星夜。久しぶりじゃない? いつも一緒に遊んではいるけど……」

 くすくす、と永久花は笑う。

「ひどいじゃない。いつのまにか。わらわに許可もなく、鉄の掟を破るなんて」
「掟破りはしていない……永久花、ついに学校に奇襲を仕掛けるほど、落ちぶれたか」

 星夜は話しながら、右手に力を集めている……紅い球が、どんどん巨大になっていく。

「学生のころの貴様はもう少し気高かった」
「うるさいわねえ! あなただって学生のころは、もっと……もっと……」

 永久花は意外なほど――激昂した。
 そしてその勢いで、零の手から、私を奪い取る。

 怖い……そばにいるだけで、命の危機を感じる殺気がある。

「歌子に手を出すな!」

 星夜は声を張り上げ、紅い球を放出しようとして――。
 廊下の奥には、まだ学生たちが残っている。
 学生たちに気がつき、星夜はとっさに手を止めた。
 星夜はすぐに、永久花に向きなおり、今度こそ紅い球を放出しようと手のひらを向けたけれど──。

 その隙に、永久花は私を抱えたまま宙に飛び立つ。

「永久花――」
「ほんと、星夜って優しいんだから。弱いあやかしのひとりやふたり、別に死んだっていいのにね。あははっ!」

 星夜はおそろしい形相で永久花を睨みつける。

「この子を返してほしければ、ひとりで神参山に来なさい。警備の者もだれも連れてきては駄目。もちろん力も使っては駄目。取引をしましょう。……簡単なことよ。ただ、鬼神族が天狗族のしもべになるよう、契約を結べばいいだけなのだから!」

 くすくす! と、永久花はいかにも愉しそうに笑った。
 星夜は、空中に浮く彼女に今度こそ紅い球をぶつけたけれど――。

 永久花が飛び立つ方が早くて、星夜の放った紅い球は、幽玄学院の校舎の上に花火のように散った。
 赤い残像をたくさん残して――。

 歌子、と星夜が叫んでいた。
 もうだいぶ空高くに来てしまっている。
 犬の耳だから捉えることのできる、星夜の声。

 体育館からは……火と煙が、出ている……。
 被害者は、本当にいないのだろうか。大丈夫だろうか。

 私はじたばた暴れるけれど、どうにもならない。
 幽玄学院がどんどん小さくなっていく。

 助けてと――私はこの身体では、叫ぶことも、できないのだ……。

 ごめん、星夜……夕樹……巻き込まれたひとたち。
 私のせいだ……。

 私が、こんなに弱くて、つねに守ってもらわなくては何にもできない存在だから――。