他のひとたちにも音は聞こえたのだろう。
 急に、あたりはざわざわし始めた。

 私たちの前方や後方には、移動をしていたクラスメイトたちがいる。

 悲鳴を上げるひとが少ないのは、あやかしの学校だからだろうか……。
 こういう状況にも慣れているのかもしれない。

「ちょっと……特殊能力の授業以外で力を使うのは校則違反だよ、だれがやったの?」

 夕樹は立ち止まって、あたりをきょろきょろと見回す。
 そんなときだった。

 廊下の向こうから、三人の天狗――流と水と零が、やってきた。

 流が必死な様子で言う。

「ごめん夕樹。ちょっと、来てくれない? 夕樹の力が必要なの!」
「え? なに? ……もしかして、あんたたちが何かやったの?」
「違う、違うよ、このままじゃ山華が死んじゃう!」
「――どういうこと?」

 夕樹の顔色が変わる。
 零が口を開く。

「僕たちにもまだ、何が起こったのか理解できていないんだ。なぜだかわからないが、急に体育館で爆発が起こって……天井が破壊されて、瓦礫の山になってしまった。火も起こっていた。火は、氷子が冷風を当てて抑えてくれてるが……瓦礫の方は、氷子や僕たち天狗の力じゃ、なんとも……。夕樹の怪力が必要なんだ……」

 水も必死な様子で、拝むように両手を合わせる。

「そういうわけで、お願い、とにかく来て! 普段、私たちが夕樹にきつく当たってるのは認めるよ……でも、普段のことはいまだけ忘れてっ。私、別に山華と仲いいわけじゃないけどさ……初等部からずっと一緒のクラスメイトだよ? 死んじゃうなんて、いや……」
「わかったよ。とにかく行こう。歌子、一緒に来られる?」

 夕樹はそう言ったけれど、しかし、零が口を開く。

「いや、叶屋さんを一緒に連れていくのは危険だ。まだ火も完全に収まったわけじゃないし、体育館の崩壊も続いている。……いまの叶屋さんはとりわけ身体が小さいし、万一瓦礫に埋もれたりしたら。人間の身体に化けていた山華だって自力では抜け出せていないんだ」
「で、でも……歌子を守るように、僕は星夜様から言われてるんだ……いつもそばにいなくちゃ」

 夕樹はパニックに陥ってるようだった。
 私のそばにいて、私を守らなくてはいけない。でも、山華さんも助けなくてはいけない。

 ……行って、という気持ちを込めて、私はわんと鳴く。

 夕樹しか、助けられないはずだ。
 力持ちの夕樹しか!