午後は、星夜の行きつけだという犬カフェに行った。
上野のちょっと奥まったビルのなかに、その犬カフェはあった。
あまりお金持ちの来るようなイメージじゃなくて、ちょっとびっくりしたけど……。
お忍びだからなのかもしれないし。
何より……。
「かふぇ、もか、くるみ。久しぶりだな。よしよし、よしよし」
トイプードルと、ダックスフントと、ゴールデンレトリバー。
三匹が、尻尾をぶんぶん振って星夜に近づいてくる。
星夜は三匹ともわしゃわしゃと可愛がっていた。
馴染みの犬たちがいるから、星夜はここに通い続けているのだろう。
それに、店内は意外なほど広くて、清潔だった。
たくさんのおもちゃがあって、犬たちが遊ぶスペースも充分に確保されている。
店員さんが話しかけてくる。
「鈴木さま。しばらくぶりですね」
鈴木、というのは偽名だろう。
修羅の鬼神様も大変だ……。
「ちょっとばたばたしていてな。なかなか来られなかった」
「大学の方がお忙しかったんですか? いつも試験や課題で忙しそうですもんね」
「そんなところだ」
なるほど、大学生って設定にしているのか……。
それでも全然、星夜は普通に通る。
見た目の雰囲気も普段と全然違うし、大学生と言われていれば、ニュースに出てくる鬼神族の長とすぐに結びつけるのは難しいかもしれない。
「今日はわんちゃんを連れてこられたのですね」
「ああ。俺の、飼い犬だ」
「あら! わんちゃん、飼えたんですか。お家の事情で難しいとおっしゃってましたから。よかったですねえ。可愛いですね、真っ白で、毛がふかふかで。賢そうですね」
「そうだろう。とてもいい子なんだ」
「お名前はなんて言うんですか?」
「名前は……」
星夜は困ったように、私を見た。
「これから、つける」
「そうなんですね。お名前、楽しみです。水色の首輪が似合うから、そこからつけてもいいかもしれませんよね」
ふふっ、と店員さんは笑った。
「うちは飼い犬も歓迎の犬カフェなので、どうぞゆっくりしていってくださいね。わんちゃんも、ゆっくりしていってね。おもちゃもいっぱいあるよ」
店員さんは受付に戻っていった。
他にも何組かお客さんがいるけれど、店内は広くて、のびのび過ごせそう。
「ここはおもちゃが充実している。遊ぶか」
犬のおもちゃなんて……。
と、最初は思ったけれど。
噛んでも噛んでも噛みごたえのある、骨ガム。
犬の期間って歯のあたりが結構うずうずしているのだけれど、ガムを噛むと、爽やかさとともになんとも言えない快感がある。
電池で勝手に動いて、逃げていくねずみのおもちゃ。
最初は、子ども騙しみたい、って思ったんだけど。
いざ追いかけてみると、なかなか捕まらなくて、面白い。
犬用のアスレチック。
トンネルがあったり、坂道をのぼったり、滑り台があったり。
人間の身体からすると小さなアスレチックなんだろうけれど、犬の身体だと結構な大きさで、挑戦しがいがある。難易度もちょうどいい。
滑り台では、伏せて滑ると、お腹にひんやりした感覚があって癖になる……。
「じょうずだな、可愛い、いい子、いい子だ」
星夜はいちいち褒めてくれて――まあやっぱり、まんざらでもない自分がいた。
疲れると、他の犬たち――かふぇ、もか、くるみと一緒に、星夜の膝に乗った。
四匹の犬にもふもふと埋もれる星夜は……。
「天国か……」
心の底から絞り出すかのようにそう言っていた……。
今更すぎるかもしれないけれど。天国、って語彙も、鬼神族に存在するんだね……。
自分が犬なのに変な話かもしれないけれど、私も、他の犬と戯れることができて楽しかった。
「もふもふは、正義だ……」
星夜のそんな言葉にも、若干共感できちゃったりして……。
上野のちょっと奥まったビルのなかに、その犬カフェはあった。
あまりお金持ちの来るようなイメージじゃなくて、ちょっとびっくりしたけど……。
お忍びだからなのかもしれないし。
何より……。
「かふぇ、もか、くるみ。久しぶりだな。よしよし、よしよし」
トイプードルと、ダックスフントと、ゴールデンレトリバー。
三匹が、尻尾をぶんぶん振って星夜に近づいてくる。
星夜は三匹ともわしゃわしゃと可愛がっていた。
馴染みの犬たちがいるから、星夜はここに通い続けているのだろう。
それに、店内は意外なほど広くて、清潔だった。
たくさんのおもちゃがあって、犬たちが遊ぶスペースも充分に確保されている。
店員さんが話しかけてくる。
「鈴木さま。しばらくぶりですね」
鈴木、というのは偽名だろう。
修羅の鬼神様も大変だ……。
「ちょっとばたばたしていてな。なかなか来られなかった」
「大学の方がお忙しかったんですか? いつも試験や課題で忙しそうですもんね」
「そんなところだ」
なるほど、大学生って設定にしているのか……。
それでも全然、星夜は普通に通る。
見た目の雰囲気も普段と全然違うし、大学生と言われていれば、ニュースに出てくる鬼神族の長とすぐに結びつけるのは難しいかもしれない。
「今日はわんちゃんを連れてこられたのですね」
「ああ。俺の、飼い犬だ」
「あら! わんちゃん、飼えたんですか。お家の事情で難しいとおっしゃってましたから。よかったですねえ。可愛いですね、真っ白で、毛がふかふかで。賢そうですね」
「そうだろう。とてもいい子なんだ」
「お名前はなんて言うんですか?」
「名前は……」
星夜は困ったように、私を見た。
「これから、つける」
「そうなんですね。お名前、楽しみです。水色の首輪が似合うから、そこからつけてもいいかもしれませんよね」
ふふっ、と店員さんは笑った。
「うちは飼い犬も歓迎の犬カフェなので、どうぞゆっくりしていってくださいね。わんちゃんも、ゆっくりしていってね。おもちゃもいっぱいあるよ」
店員さんは受付に戻っていった。
他にも何組かお客さんがいるけれど、店内は広くて、のびのび過ごせそう。
「ここはおもちゃが充実している。遊ぶか」
犬のおもちゃなんて……。
と、最初は思ったけれど。
噛んでも噛んでも噛みごたえのある、骨ガム。
犬の期間って歯のあたりが結構うずうずしているのだけれど、ガムを噛むと、爽やかさとともになんとも言えない快感がある。
電池で勝手に動いて、逃げていくねずみのおもちゃ。
最初は、子ども騙しみたい、って思ったんだけど。
いざ追いかけてみると、なかなか捕まらなくて、面白い。
犬用のアスレチック。
トンネルがあったり、坂道をのぼったり、滑り台があったり。
人間の身体からすると小さなアスレチックなんだろうけれど、犬の身体だと結構な大きさで、挑戦しがいがある。難易度もちょうどいい。
滑り台では、伏せて滑ると、お腹にひんやりした感覚があって癖になる……。
「じょうずだな、可愛い、いい子、いい子だ」
星夜はいちいち褒めてくれて――まあやっぱり、まんざらでもない自分がいた。
疲れると、他の犬たち――かふぇ、もか、くるみと一緒に、星夜の膝に乗った。
四匹の犬にもふもふと埋もれる星夜は……。
「天国か……」
心の底から絞り出すかのようにそう言っていた……。
今更すぎるかもしれないけれど。天国、って語彙も、鬼神族に存在するんだね……。
自分が犬なのに変な話かもしれないけれど、私も、他の犬と戯れることができて楽しかった。
「もふもふは、正義だ……」
星夜のそんな言葉にも、若干共感できちゃったりして……。


