結局、すっかり……楽しんでしまった……。
 ちょっと恥ずかしい。

 星夜は私の頭を撫でながら言う。

「そろそろ昼を食べに行くか?」

 いつのまにか、もうそんな時間。
 私は肯定と、照れ隠しの気持ちもちょっと込めて、わんわんと鳴いた。

 ドッグランを出るとき、受付の人が「わんちゃん、ずいぶん楽しそうでしたね」と微笑んでくるものだから、もっと恥ずかしくなってしまった。
 星夜は誇らしそうだったけど……。

 車で、今度は都内へ移動する。
 着いたのは港区のおしゃれなカフェ。
 こんなところ、犬を連れて入っていいの? と思ったんだけど、なんとここはドッグカフェ――犬を連れてくることができる、犬も楽しめるカフェなのだという。

 お昼どきで、さすがに他にもお客さんがいた。
 犬たちがちらりとこちらを見てくる……。

 自分が犬のときに、他の犬を見るのも新鮮だ……。
 他の犬の言葉がわかるとか、そういうこともなかった。
 まあ、そんなものだろうけど。

 私たちは一番奥の落ち着いた席に通された。
 予約をしていたらしい。

 星夜が店員さんに注文している間、ガラスの向こうに視線をやると、秋の花々の咲き誇るきれいな庭園が見える。
 そっか。犬の背丈でも景色がよく見えるように設計されているんだ。
 行き渡ってるな……。

 店員さんたちの、犬への接し方もばっちり。
 よく声をかけてくれて、こちらの様子を気にしてくれた。

「お待たせしましたー」

 程なくして、料理が運ばれてくる。
 星夜の料理と私の料理が同時に来たのだけれど……。

 私の前にことりと置かれたお皿を見て、思わず星夜を見上げる。
 これ、星夜のものと間違えてない?

 凝ったデザインの、洋風ワンプレートディッシュ。
 白い陶器の大きな皿に、サーモンのグリルが中央に美しく配置され、周りには色とりどりの野菜がバランスよく並べられている。ほんのりオリーブオイルがかかったブロッコリーや、赤と黄色のパプリカが鮮やかさを加えている。まるでホテルのランチメニューに出てきそうな一品で、犬用には到底見えない。

 でもその隣に、当たり前のように水のお皿が置かれた。

 外だから、デジタルメモで尋ねるのもちょっとなあ……。
 動画なんか撮られちゃって、言葉を理解する犬! とか言って拡散されても面倒だ。
 考えすぎかもしれないけれど、すくなくとも注目を集めるのは避けたい。

「どうした? 食べるといい」

 ええ……じゃあこれほんとに、犬用なの?
 ほんとかなあ、と疑いながらも、そっと口をつけると――。

 美味しい。
 すごく美味しい。

 犬の期間は一生、星夜のつくってくれるお粥でいいって思ってたけど……。
 野菜もお肉も、犬の口でこんなに美味しく感じるものが、この世に存在したんだ!

 ……ぺろりと食べてしまった。
 しかも、デザートに犬用のケーキまで出てきた。

 もう、至れり尽くせりだ……。

「美味いか」

 星夜はとっても喜んでくれる。
 夜澄島でもいつも思うことだけど、ごはんを美味しく食べるだけで、こんなに喜んでもらえるなんて……。
 犬って結構幸せな生き物なんだろうな、なんて思った。