翌日。
星夜の取り計らいで学校を休んだ私は、お出かけすることになった。
「その、なんだ……今日は学校を休むというのはどうだ。今日は俺も仕事を休みにする。たまには、付き合ってもらえないか」
いつも忙しい星夜は、なかなか休日をとれないはずだったけれど、どうにか調整してくれたらしい。
「どこか、行きたいところはあるか?」
行きたいところかあ……。
犬の身体のときに、出かけたことなんてない。
私はベッドのわきに置かれたままだった荷物のところに向かい、デジタルメモと、デジタルメモ用のペンをくわえて持ってくる。
ペンを口でくわえて動かすけれど、うーん、やっぱり書きづらい……練習あるのみ、かな。
うねった字で、私は画面に書いていった。
『大丈夫?』
でもあんまり意味が伝わらなかったみたいで、私はデジタルメモに書いた言葉を肉球でこすって消す。
『危なくない? 外に出て』
お姉ちゃんはずっと、外に出たら危ないと言っていたから……。
だけど、星夜は納得したような顔つきで、ああ、と言った。
「俺がそばにいる。あやかしたちは、簡単には手出しができない。俺が守るから心配するな。どこであっても」
まあ、それも……そうかもしれない。
危険がないなら、出かけたいって気持ちはある。
窓から見える青空。きれいに晴れているし――お出かけ日和だ。
私はもう一度肉球でデジタルメモの画面を消し、ちょっとずつ慣れてきたペンで続きを書く。
『犬でもたのしいところ』
たとえばだけど、この身体で買い物なんて行ったところで、つまらない。
普段は大好きな浅草の仲見世通りなんかも、この身体で行っても楽しめないだろう。
ウィンドウショッピングって手もあるかもしれないけれど……だったら人間のときに行けばいいし、そもそも犬ってお店の中に入れてもらえない気がする。
遊園地やカラオケもそうだ。
遊びの定番だけれど……。
ジェットコースターにも乗れないし、当たり前だけど歌も歌えないし。
この身体でも、一日楽しめた、って思えるようなところへ行きたかった。
そんなところが存在するなら、だけど……。
デジタルメモをふたつの肉球で押さえて差し出し、星夜を見上げると、彼は衝撃を受けたような顔をしていた。
「いいのか……?」
私は首をかしげる。
「い、犬が楽しいところなんて……俺はたくさん知っているぞ! いつか飼い犬ができたときのために、たくさんたくさん調べておいたのだ。これでもかというほどあるぞ、ほ、本当にいいのか……?」
わううん、と私はちょっと呆れた気持ちを表現するために鳴いた。
そういう意味で言ったんじゃないんですけど……。
もう、ペンをくわえて書くのもまどろっこしい。
行きますよ、という気持ちを込めて、四つ足で部屋のドアまで歩いて星夜を振り向く。
彼はあっというまに荷物を全部持って、ドアを開け放つ。
建物の外に出ると、ぴっかり輝く快晴!
「お出かけだ……!」
星夜は興奮していた。まるで少年のように。
もう、私もちゃんと楽しませてくださいね、という気持ちを込めて、私はわんわんと鳴いた。
星夜の取り計らいで学校を休んだ私は、お出かけすることになった。
「その、なんだ……今日は学校を休むというのはどうだ。今日は俺も仕事を休みにする。たまには、付き合ってもらえないか」
いつも忙しい星夜は、なかなか休日をとれないはずだったけれど、どうにか調整してくれたらしい。
「どこか、行きたいところはあるか?」
行きたいところかあ……。
犬の身体のときに、出かけたことなんてない。
私はベッドのわきに置かれたままだった荷物のところに向かい、デジタルメモと、デジタルメモ用のペンをくわえて持ってくる。
ペンを口でくわえて動かすけれど、うーん、やっぱり書きづらい……練習あるのみ、かな。
うねった字で、私は画面に書いていった。
『大丈夫?』
でもあんまり意味が伝わらなかったみたいで、私はデジタルメモに書いた言葉を肉球でこすって消す。
『危なくない? 外に出て』
お姉ちゃんはずっと、外に出たら危ないと言っていたから……。
だけど、星夜は納得したような顔つきで、ああ、と言った。
「俺がそばにいる。あやかしたちは、簡単には手出しができない。俺が守るから心配するな。どこであっても」
まあ、それも……そうかもしれない。
危険がないなら、出かけたいって気持ちはある。
窓から見える青空。きれいに晴れているし――お出かけ日和だ。
私はもう一度肉球でデジタルメモの画面を消し、ちょっとずつ慣れてきたペンで続きを書く。
『犬でもたのしいところ』
たとえばだけど、この身体で買い物なんて行ったところで、つまらない。
普段は大好きな浅草の仲見世通りなんかも、この身体で行っても楽しめないだろう。
ウィンドウショッピングって手もあるかもしれないけれど……だったら人間のときに行けばいいし、そもそも犬ってお店の中に入れてもらえない気がする。
遊園地やカラオケもそうだ。
遊びの定番だけれど……。
ジェットコースターにも乗れないし、当たり前だけど歌も歌えないし。
この身体でも、一日楽しめた、って思えるようなところへ行きたかった。
そんなところが存在するなら、だけど……。
デジタルメモをふたつの肉球で押さえて差し出し、星夜を見上げると、彼は衝撃を受けたような顔をしていた。
「いいのか……?」
私は首をかしげる。
「い、犬が楽しいところなんて……俺はたくさん知っているぞ! いつか飼い犬ができたときのために、たくさんたくさん調べておいたのだ。これでもかというほどあるぞ、ほ、本当にいいのか……?」
わううん、と私はちょっと呆れた気持ちを表現するために鳴いた。
そういう意味で言ったんじゃないんですけど……。
もう、ペンをくわえて書くのもまどろっこしい。
行きますよ、という気持ちを込めて、四つ足で部屋のドアまで歩いて星夜を振り向く。
彼はあっというまに荷物を全部持って、ドアを開け放つ。
建物の外に出ると、ぴっかり輝く快晴!
「お出かけだ……!」
星夜は興奮していた。まるで少年のように。
もう、私もちゃんと楽しませてくださいね、という気持ちを込めて、私はわんわんと鳴いた。