疲れが溜まっていたのかもしれない。
 星夜に撫でられながら、そのまま寝落ちしてしまった……。

 夜中。
 耳がぴくりと動く。
 星夜の話し声で、目が覚める。

 私は星夜の膝の上で眠っていたようだった。

「ああ……明日は無理にでも休ませようと思う」

 電話をしているようだ。抑えた声で、ささやくように。
 私はあわてて目をつむる。

「夕樹から報告は受けていた。クラスの雰囲気のこと、学校であったトラブルのこと、授業のこと……ああそうだよな暮葉、貴様も聞いていただろう。夕樹もすごく心配していたな。俺も悩んでいた……歌子は、自分で自分の状況をどうにかしたいのだろうと見守ってきたが……無理をさせすぎてしまった。……後悔している。歌子は明日も学校に行きたがるだろうが、一度休んだほうがいい」

 電話の相手は……暮葉さんのようだ。
 そして、話しているのは――私のこと。

「歌子か? いまはよく眠っている。すぐに寝てしまった。家が変わり、学校が変わり、疲れないわけがない。もっと気にしておかねばならなかったな……」

 そっと、星夜は私のおでこの毛を撫でた。

「……優しすぎる? それは誉めてないな、暮葉。……愛してはならない? ああ……わかってる」

 ぽつりとつぶやくようにそう言って、星夜は電話を切った。
 そして私をふわふわと撫でる。
 ふわふわ……ふわふわと……。

「……いい子だと、本心から思って言っているのだが。どこまで伝わっているのだか」

 そっと言葉を置くかのように、星夜はつぶやいた。

「本当に気丈だ。おまえはどんなにつらくとも、笑って、自分の足で立とうとする。これまでもそうやって生きてきたのだろう……呪いが発動しても。本当に強い……俺がこれからは支えてやりたい。おまえを甘やかしてやりたいと――そう思うように、いつのまにか、……なってしまった」

 胸が、いっぱいになった。
 私のことを、このひとは見ていてくれたんだって――わかって。

「……おまえが起きていたらとてもこんなことは言えない」

 明日、学校に行かない――。
 それはずるいんじゃないかなって思いながらも。
 安心していたのも、事実だった……。

 ――休みたかった。
 すこしでいい、休みたかったんだ……。

 このひとは、本当に。
 私のことを、考えてくれているんだなって思って――。

 その夜は、ふわふわした気持ちにずっとつつまれて、眠ることができた。
 一晩中私を抱っこしてくれていた星夜の腕のなかで――。

 もう一度、眠りが私を誘う。
 すうすうと、自分が寝息を立て始めているのがわかる。

「本当に可愛い……」

 まどろみのなかで……夢のような言葉が、聞こえてきた。
 彼は、私を撫でながら――。

「……愛するな、か。わかっている。ただ犬だから可愛いだけで。俺は歌子を、愛してはいない……愛しては……いないはずだ……」

 でも、そのとき私はほとんど穏やかな眠りの世界にいて。

「愛してはいけないのだから――愛してしまったら、苦しくなるだけなのだから」

 星夜のこの言葉を聞く前に、私は、眠りに落ちてしまっていたのだった――。