私は星夜を見上げた。
 いったい私はいま、どんな顔をしているのだろう。
 情けなく……映っていなければ、いいんだけどな。

 星夜は、私に手を伸ばして。持ち上げて、ぎゅっと抱きしめた。
 頭を、優しく優しく撫でてくる。
 ……それはこのあいだ、帰りの船でできなかったことの、続きのように思えた。

 だめ……だめだよ。
 いま、そんなに優しくされちゃったら。

 明日から犬のすがたで学校に行かなきゃいけない不安が、全部……とろけ出しちゃうじゃない……。

「……くーん」

 一度不安を鳴き声にすると、止まらなかった。
 くーんくーんと、さみしそうな犬の鳴き声そのものを出しながら、私は短い前脚で星夜の胸を何度もこすった。
 情けないのは、わかっていたけれど……もう、止まらなかった。

 星夜はそのたび、応えてくれた。
 撫でてくれる、ふれて、あたためてくれる……。

「歌子は、本当に、とてもがんばっている。俺は知っている……どんな状況でも弱音を吐かず、自分でどうにかしようとする。歌子は、とても……いい子だ」

 ……そんなことを言われてしまったら。
 もう、耐えきれなくて。

 これまでのつらさを、強がりのなかにあった弱さを、全部さらけ出すかのように、私はその大きな胸に一生懸命、顔をうずめてしまった。
 顔を動かし、頭をこすりつける。星夜は、私を抱きかかえる腕の力を強めてくれる。痛くない。あたたかい、強さだった。

 犬は、悲しみで涙を流すことができないけれど。
 でも。犬のすがたでも、泣けることを、私ははじめて知った。

「よしよし、いい子だ……いい子……」

 星夜は、そんな私を、どこまでも優しく……愛おしそうに、包み込んでくれた。