その日は、そのまま一緒に過ごした。

 晩ご飯は星夜の隣で、お手製のお粥を食べた。
 やっぱり美味しい……。
 鬼神族のみなさんの手前、人間の姿だと食べる作法にも気をつけなきゃで、なかなかに肩が凝ったけれど、犬の姿だと食事も楽だった。

 夜は、私の部屋で一緒に過ごす。
 星夜には、犬の私と無限にやりたいことがあるようだった。
 私をもふもふして、すーはーして、撫でまわして、抱っこして、ボール遊びをして、写真を撮りまくる……。 

 普段から夜はわりと一緒に過ごしてはいたのだけれど、今日は、片時も私のそばから離れたくないという星夜の確固たる意志を感じた。
 さすがにお風呂には行っていたけど……。

 ちなみに星夜がお風呂に行く前、私は毛並みのお手入れをしてもらった。
 星夜ってさすが、ブラシをかけるのも上手い……。
 お姉ちゃんも別に下手ではなかったと思うんだけど、星夜のお手入れは気持ちよささえ感じてしまって、ちょっと夢見心地になってしまった。

 私の全身の毛。少し長めで、すぐに絡まったりするから、こうしてほぐしてもらうとすごい助かるんだよね……。
 自分で毛づくろいもするけれど、どうしても限界があって。もともと犬なわけじゃないから、あんまり上手じゃないし……。

 ずーっと私と一緒にいたがる星夜のことを、仕方ないなあって思いつつも。

「なんと可愛いんだ……」

 すっごい可愛がられて……。
 まあ……悪い気がしないのも、本当だった。

 彼にふれられていると……不思議と、落ち着く。
 学校での悩みも……遠いものに感じられてきて……。
 ひさしぶりに、呼吸がちゃんとできている気がした。

 夜も更けてきて。
 暮葉さんが星夜を呼びに来た。

「星夜様。そろそろお休みになった方がよろしいかと」
「もうそんな時間か」

 星夜は、私の頭に手を載せる。
 まだ人間に近い姿のときには星夜もためらっていて、私もその手を押し返してしまったけれど。
 いまのこのすがただと……素直に、受け入れられるのだった。

 星夜は、立ち上がるけど……。
 名残惜しそうに私を見つめていた。

 私も、星夜を見上げる。

 ああ。楽しくて、……なんにも考えなくていい時間は、終わってしまうんだな。
 星夜が自分の部屋に帰れば、このまま、ひとりで……。
 自分ひとりではスマホやタブレットの操作も満足にできず、気を紛らわすこともできないまま、夜を過ごさなくてはならない。

 やっぱり、考えてしまう。
 考えても仕方ないって思っても、考えて考えて、不安になってしまう。

 ……明日、犬のすがたで学校に行って、どうなるのかな。
 人間のすがたよりも、このすがたはずっと不自由だ……。
 いくら星夜や夕樹がいてくれるとはいえ。

 無抵抗な身体の私が、嫌われている学校に行って……どうなっちゃうのかな。