そして私は……変身の(とき)を迎えた。

 夜澄島の自分の部屋で。
 身体がかっと熱くなり、縮む。ただでさえ広い部屋が……もっと広く感じるようになる。
 嗅覚が鋭くなる。

 もぞもぞと着ていた制服から抜け出して、ぶるぶるっと全身を震わせた。

「……変身したか?」

 ドアの外から、星夜が聞いてくる。
 わうん、と私は肯定するために鳴いた。

 変身するときはなんとなく恥ずかしくて、外に出ていてもらったのだ……。

 そして、星夜は私の変身の刻を待ち構えていた。
 待ちきれないとばかりに、ドアを開く。

 彼は目を輝かせて、走ってきたわけでもないだろうに息を切らしていて。
 見上げる私と目が合った途端、その目はとろとろと溶けて頬が緩む。

「犬……俺の犬だ……!」

 別に星夜の犬ではない……と突っ込めないところが、なんとも……。
 一応、そもそもいま、私がどうして夜澄島にいるのか思い返すなら。月に一度だけでも飼い犬として一緒にいられるから、って前提があったからだもんね……。

「なんと可愛らしい! ああ、焦がれていた。このもふもふ。もふもふ!」

 星夜はすっかりデレデレして、私を抱き上げて全身の毛に顔をうずめ出した。

 私の目は、じとっとしているのではないだろうか……。
 中身は変わらず人間の叶屋歌子なんだよ?
 それでも、いいの?

 でも星夜はかまわないみたいだ……。
 あんまりにも、もふもふ、もふもふしてくるから、くすぐったくなってきて私は四肢をじたばたさせた。

「おお……くすぐったかったか。すまない」

 星夜はそう言って、もふもふするのをやめた。
 このひと……犬の気持ちは、すぐにわかるんだもんなあ……。

「では……次は、すーはーだ。すーはー……すーはー……」

 毛のあいだに、息が入り込んで……やっぱりちょっと、くすぐったいんですけど……。

 ため息をつく代わりに、私は小さな円を描くかのようにくるんと尻尾を動かす。

 でも星夜がすっごく嬉しそうだから。
 まあ、しばらくはやらせてあげようかな……。