「……やはり、強がりだったのか」
「えっ?」
「尻尾がしゅんと丸くなっている。耳もへたりとなっている」
「あっ、こ、これは……その、そういうんじゃなくて……」

 ……ああ、これだからもう、犬の身体は。
 感情を隠しきれないから、困る……。

 人間だったら。
 表情に気をつけて。話し方に気をつけて。
 隠そうと思えば――隠せるものなのに。

 私は、必死で、星夜に笑顔を向ける。

「ほんとに、大丈夫です。せっかく学校に行かせてもらってて。ほんとに、嬉しいんですから!」
「歌子……」

 両手で拳まで作ってみせたのに。
 星夜は――私を静かに見つめることを、やめてくれない。

「おまえは、頑張りすぎる」

 星夜は、身じろぎするかのように身体を動かす。
 修羅の鬼神様のおそろしさは、微塵もなく……。
 ためらいを見せながら、彼は私との距離を、縮めた。

「とっても頑張り屋だ……そんなおまえを、好ましく思うが、潰れてほしくはない」

 私は、気がついた。
 星夜には、星夜にだけはみっともないところを見せたくなかったんだ、って。
 楽しく過ごしているところを――見ていてほしかったんだ、って。

 星夜は、私にふれるかどうかすごく迷っているようだった。
 頭にぽんと手を当て、撫でてくれるつもりだったのかもしれない。……抱きしめてくれるつもりだったのかもしれない。
 そうだよね。だって、私は星夜にとってはただの飼い犬だから……。

 ただ、それだけだよね……。

「潰れたりなんてしませんよ」

 私は笑顔をつくろうとして――でもうまく笑えなくて、笑顔は、たぶんゆがんでしまった。
 星夜は、そんな私に腕を伸ばしかけたけれど。

「本当に……大丈夫ですから」

 私は、星夜の腕を、押し返してしまった。
 いま、優しくされたら、泣いてしまいそうだったから。

 明日、犬の身体で学校に行きたくない、とか……。
 自分であんなに、学校に通いたいって望んでおいて。

 まったく筋違いのことを……言ってしまいそうだったから……。

 帰り道は……普段よりも長くて、苦しい沈黙に満ちていた。