そうして、二週間ほど経ったけど……。
 学校での毎日は、相変わらずだった。

 私の身体には、犬の耳と尻尾が生えている。
 変身の期間が近づいているのだった。
 ……私は明日、日没とともに、完全な犬の姿に変身する。

 犬の耳と尻尾が生えているから、なるべく人に見られないように気をつけて帰りの船に乗る。
 窓のシャッターを下ろす。変身する期間、人目につかないように──つまりは私のためだけにつけてくれたらしい。つくづく、申し訳ないというか……。

 普段よりも水の音が遠い船のなか。
 星夜とふたりで、ふかふかの座布団に座る。

 幽玄学院では、確かに……。
 私の身体に犬の耳と尻尾が生えていても、まったく問題にならなかった。

 というか……話題にもならなかった、と言ったほうがいいのかな。
 無視されているという事実を、普段よりもっと鋭く感じるのだった。

 星夜にまた、言われた。

「歌子。学校生活はどうだ」

 なんだか恒例みたいになった、このやりとり……。
 だからこそ。返し方だって、もうわかっている。

「大丈夫です! 今日は『特殊能力』の授業で、ドッジボールをして。夕樹、すごい強いんですよね。力持ちって本当だなって。私もボールを追いかけるのが楽しくて!」

 今日あったことを、笑顔で話せばいい。
 無邪気だって思われるほどに……。

 いやなことは、言わずに。

 幽玄学院特有の――あやかしの学校だからこそある「特殊能力」の授業は、いま私がもっとも苦手な授業だ。
 あやかしたちが各々、自分たちの力を競う。
 自由に。のびのびと。普段は禁じられている彼らの特殊能力を、存分に発揮させる――。
 特殊能力を訓練するための授業なのだ。

 でも、私には……なんの力もないから……。
 攻撃されるがままだ。

 同じコートにいた狸の山華さんにボールの幻覚を見せられて。
 氷子さんに、周りの温度を下げられても。

『ちょっと、二人とも、やめてよ!』

 夕樹がいつも怒って彼女たちにボールを投げつけてくれて、夕樹は本当に力が強いから、それで毎回どうにか場は収まるのだけれど……。

 悔しい。
 悲しい。
 ……情けない。

 私は――自分の身ひとつ、自分で守れないのだ。

 ……明日から、完全な犬の身体になる。
 正直なところ……怖い。

 犬の身体は、人間の身体よりもっと無力だ。
 そんな無力な身体で学校に行ったら――。

 そう考えると、息が詰まるのだった。