私は視線を上げて、夕樹に伝える。

「……ありがとう。夕樹は優しいね」
「そんな、普通だよ、普通」

 夕樹はあわてたように両手を振って……。
 腕を組んで、うーん、とうなった後、ちょっと真面目な顔になった。

「……あのさ、歌子。さっきの二人のことなら、気にしなくていいから。氷子も山華(さんが)も悪い子じゃないんだよ。でも、あんな言い方されちゃったら、気になるよね。なんて言えばいいのかなあ……」

 夕樹は、右手で頭を掻いた。

「やっぱり、あやかしってなんだかんだで力を気にする生き物なんだよね。相手より強いか弱いか、もし戦ったときに勝てるかって、すごい大事。人間の学校では学力やスポーツの力が重視されて、人間関係にも影響を及ぼすんでしょう? それと同じ」

 それは……。
 確かに、そうだ……。

「呪い持ちって、あやかしならみんな知ってるし、めったにいないし。歌子が来て、みんな自分の力がみなぎっているのを感じてるだろうし。僕も感じてるよ。普段の倍は力が出そう。でもみんな平等に力が高まるわけだから、新しい争いには結びつかないだろうけど」
「……そうなの?」

 自分では、やっぱり、まったく気づかない。

「そばにいると力が高まるから、歌子のことをみんな簡単に敵に回すことはできない。だから、襲ってもこない。でも……ごめん歌子、気を悪くしないでね、歌子自身が妖力や霊力を持っているわけじゃないでしょう?」
「うん……」
「戦いがすごい強かったりもする?」
「ううん……全然」
「だからだと思うんだ、みんな、まだ歌子と打ち解けようとしないのは。あやかしはどうしても、力が弱い相手は、軽く見るから……」

 夕樹は気まずそうだった……そこに、彼女の優しさが感じられたけれど。

「夕樹はそういう……強さみたいなものは、気にしないの?」
「んー……気にしないわけでもないんだけど。僕はまあ、学院では誰にも負けないくらいには強いからなあ……」

 そうだった……。
 夕樹は、かなり強いらしくて、だから私のそばにいる役目を任されていたんだった。

 たとえば成績が学年トップの子や、部活で全国大会に出るような子でも、意外とみんなに優しかったりする子がいるように。
 自分が突き抜けて出来すぎると、他人のことはあまり気にならないってことなのかな。

 夕樹……すごいなあ……。

「氷子と山華のさっきの態度はよくなかった。僕、あとであの二人のこと、しっかり叱っておくから。気にしないでね。歌子は一応人間なんだから、あやかしの力なんてなくて当然だし! 理解しようとしない方も悪いよ」

 夕樹は、善意で言ってくれているのだろう。

 でも……だからこそ、胸が苦しくなった。
 私がいるせいで……夕樹は、友達と過ごせなくなったんだ。

 甘えっぱなしではいけない。
 私も、私のできることをやらないと。
 夕樹とつねに一緒でなくてもいいように。
 一刻でも早く学校に馴染んで、夕樹には夕樹の学校生活を送ってもらえるように、するんだ……!

 私は、意気込んでいた。
 ……またしても、意気込んでしまっていたのだ。