あっというまに、昼休みになった。

「歌子、一緒にご飯食べよ! あー、おなか空いた。歌子、おせんべい食べる? いっぱい持ってきたから!」

 夕樹は、朝からずっと私のそばにいてくれている。
 隣の席にいるだけではない。移動教室や、授業中の活動のときも、つねに。

 ありがとう、もらおうかな、と言いながら、星夜お手製のお弁当を出しているときだった。

 雪女の子と狸の子が、夕樹のところにやってくる。
 狸の子は人間に化けていて、ころっとした可愛らしい女の子の姿。

 雪女の子が言う。

「夕樹。今日はどうします? 食堂行きます?」
「あ、ごめん、今日はパスで。教室で食べるから」
「そっかあ……忙しいもんね。鬼神って大変」

 狸の子がそう言って、ちらりとこちらを見てきた。
 私を、睨んでいる――明らかに、よく思われていないのがわかった。

「仕方ないですよ。鬼神族は、あの雨宮星夜様がトップなのですよ?」
「そうだよねえ。雨宮星夜に命じられたらねえ……」

 狸の子は腕組みをしながら、うんうんと頷いていた。

「歌子は僕の友達だよ。二人とも、一緒に食べる?」
「いえ……遠慮しておきます。叶屋歌子様はやんごとなき御方。万一にでも凍らせてしまったら、一大事ですから」
「あたしも。今日は氷子(ひょうこ)と二人で食堂行くわ。また後で『れいん』するよー」
「はいはいー」

 私は、お弁当の風呂敷をほどいて、自分の指ばかり見つめていた。
 教室の喧騒が、急に遠いもののように感じる。

 そうだ……忘れていたけれど。
 学校って、教室って、こういう場所だった。

 もう半年も離れていて、憧れだけが募っていたけれど、何もきらきらしたものばかりが詰め込まれた場所ではなかった――。

「食べよ、食べよー。うわ、歌子、それ星夜様のお手製でしょ? すごいなあ。星夜様ってお料理上手って噂、本当なんだね」

 夕樹は、何事もなかったかのように接してくれるけれど……。

「あ、あの……夕樹」

 なかなか次の言葉を言い出せない私にも苛々することなく、なに? と夕樹は問いかけるかのように首をかしげてくれる。

「さっきの、雪女の子と狸の子と昼ごはん食べたいなら……食堂に、行ってくれて大丈夫だよ……」

 私は夕樹から視線を逸らしながら言う。
 こんな……ずるい言い方しか、できないなんて。

「ええっ、そんなの、気にしないでよ。歌子と一緒に食べることができて、僕は嬉しいんだから!」

 それは、私が鬼神族の長に保護されている存在だから?
 なんて、一瞬でも思ってしまって……すぐに自分を恥じた。
 夕樹はそんなことを思うような子じゃないはずなのに……。