幽玄学院の初日。

 制服は、古風なセーラー服。
 男子は学ランなのだと夕樹が教えてくれていた。

 星夜が部屋まで迎えに来てくれて、護衛のひとたちと一緒に歩いていく。
 てっきり車に乗るのだとばかり思っていたけれど、案内されたのは、なんと船着き場だった。
 小型の屋形船のような、古風だけれど最新のモーターもついた船が待機している。

「えっ……船?」
「乗るといい」

 星夜が自信たっぷりに言うので、私はおずおずと船に乗り込む。
 中は和風で、赤い座布団に座って外の景色を眺めることができる。

 優雅で豪勢な船。まるで屋形船のようだ。
 そんな船に、船の運転手さんや甲板に立った護衛の人以外は、私と星夜だけで乗る。

 てっきり夕樹もいるのかと思っていたのだけど、彼女は自分で通学するらしい。
 朝に「れいん」でメッセージを送ってみたら、「星夜様と一緒に行くなんて恐れ多くてできないよ」と汗マークつきで送られてきて、その後すぐに「学校で会お! すぐに合流できるからね!」と笑顔の顔文字つきの元気なメッセージをくれた。

 船が、ゆっくりと動き出す。
 夜澄島の人たちが、一斉に頭を下げる。私はお辞儀を返した。

 夜澄島が少しずつ遠ざかっていく。
 今日は晴れているからか、窓が開け放されていた。
 潮の香りを、そのまま感じることができる。

 星夜は相変わらずぶっきらぼうに、しかし丁寧に説明してくれた。
 東京湾から神田川(かんだがわ)を上っていけば、幽玄学院のある浅草に着く。
 デザインは古風でも最新の機能を備えた船だから、パワフルに進み、かかる時間は三十分ほど。

「意外と近いんですね。車で行くよりちょっと早いくらい」
「朝の道路は混む。わざわざ毎日、不便をかけることもない」

 川は、道路と違って誰もが通れるわけではない。
 鬼神族は神田川も東京湾も自由に通行する権利を確保しているから、こうして船が出せるのだという。

「それに」

 星夜は得意げでもなく、遠くを見つめるかのような、静かな横顔のまま言った。

「船のほうが、きっと気持ちいい」

 確かに……。
 海風が気持ちいい。水が青い。
 東京にも海があるのに……見に来たことなんて、ほとんどなかった……。