星夜はちょくちょく、本当にちょくちょく様子を見に来てくれた。
犬のすがたの私だけではなく、人間のときにも私に会いに来てくれるんだなって、ちょっと意外だった。
忙しいだろうに……。
だいたい何をするでもなく、同じ空間で他愛もない話をしたり、動画を見たりして過ごす。
私のおすすめの動画をいくつか見せたら、真面目そのものの顔で視聴して真面目そのものの感想を述べてきたのがおかしくて、思わず笑ってしまった。
頭をからっぽにして楽しめる系の、エンタメ動画なのに……。
「何がおかしいんだ」
きれいな顔で真面目に言ってくると、もっと笑ってしまう。
私が勉強しているときに星夜が部屋に入ってくることも、わりとあった。
「また勉強していたのか」
「はい。久しぶりに学校に行くから、授業についていきたいと思って」
「買ってやった参考書を、もうそんなに進めたんだな」
星夜はサイドテーブルに目をやる。
完了させた参考書類はサイドテーブルに移して積み上げていて、そのことを星夜も知っているのだ。
「そんなにはやっていませんよ」
「いや、結構な量だと思うが」
そうだろうか?
アルバイトがないぶん、その時間を勉強にあてられているだけなんだけど……。
基本的にシフトは午前九時の開店から、午後四時まで入れていた。
それを週四から週六。
その時間がいま、丸々勉強に使える。
ちなみに、とりあえずしばらく、アルバイトはお休み。学校が始まって慣れてきたら、再開する予定だった。
早く再開したいのだけれど、私を警護する体制が整ってからでないといけないと星夜に説明されている。
私がいないときの店舗が心配だったけれど、夜空グループ直々にきちんと人を配置してくれるようだった。
それでも店長には申し訳なくて、電話で謝ったけれど……。
『出勤は落ち着いてからで大丈夫だよ、心配しないで。色々学校の準備もあるでしょう。きちんと回るように人を手配してくれたし、ついでにあの夜空グループの社員から経営のアドバイスも貰えて、助かっているくらいだよ。はははは』
店長の口ぶりからは喜びが伝わってきて、ほっとしたのだった。
星夜が聞いてくる。
「勉強が好きなのか? 塾や予備校にでも通って、もっと勉強するか」
「いえっ、いいです。別に勉強が好きなわけではないんです……」
私はあわてて言った。
「好きでもないことを、毎日しているのか。ゆっくり過ごしてよいと言っているのに」
「せっかく学校に行けるから……。私はただでさえ犬に変身するってハンデがありますから……できることは、全部やっておきたいんです」
「ふむ。では家庭教師をつけようか。夜澄島には学業に関して優秀な人材も多い。この俺が直々に教えてやってもいい」
「いえ、そんな、もうこんな贅沢な環境をいただいていて。充分です。これ以上甘えるわけにはいきません」
星夜に頼めば、何でも叶ってしまうのだろう……。
でもだからこそ、私はこれ以上、甘えたくない。
自分の望み通りになる環境を手に入れたからといって、甘えまくっていたら――自分の足で立っているとは、言えないから。
「おまえは面白いな、歌子。どうも俺の知ってる人間とは異なる。骨があり、勤勉で、つつましい」
あれ? 「おまえ」って言われた。
人間のときの私のことは「貴様」って呼んでいなかったっけ。
犬のすがたの私には、おまえって言ってたけど……。
「それに、まるで犬のようにがんばり屋だ」
……うん。
褒めてくれるのは、嬉しいのだけれど。
最後の一言さえ、なければなあ……。
犬のすがたの私だけではなく、人間のときにも私に会いに来てくれるんだなって、ちょっと意外だった。
忙しいだろうに……。
だいたい何をするでもなく、同じ空間で他愛もない話をしたり、動画を見たりして過ごす。
私のおすすめの動画をいくつか見せたら、真面目そのものの顔で視聴して真面目そのものの感想を述べてきたのがおかしくて、思わず笑ってしまった。
頭をからっぽにして楽しめる系の、エンタメ動画なのに……。
「何がおかしいんだ」
きれいな顔で真面目に言ってくると、もっと笑ってしまう。
私が勉強しているときに星夜が部屋に入ってくることも、わりとあった。
「また勉強していたのか」
「はい。久しぶりに学校に行くから、授業についていきたいと思って」
「買ってやった参考書を、もうそんなに進めたんだな」
星夜はサイドテーブルに目をやる。
完了させた参考書類はサイドテーブルに移して積み上げていて、そのことを星夜も知っているのだ。
「そんなにはやっていませんよ」
「いや、結構な量だと思うが」
そうだろうか?
アルバイトがないぶん、その時間を勉強にあてられているだけなんだけど……。
基本的にシフトは午前九時の開店から、午後四時まで入れていた。
それを週四から週六。
その時間がいま、丸々勉強に使える。
ちなみに、とりあえずしばらく、アルバイトはお休み。学校が始まって慣れてきたら、再開する予定だった。
早く再開したいのだけれど、私を警護する体制が整ってからでないといけないと星夜に説明されている。
私がいないときの店舗が心配だったけれど、夜空グループ直々にきちんと人を配置してくれるようだった。
それでも店長には申し訳なくて、電話で謝ったけれど……。
『出勤は落ち着いてからで大丈夫だよ、心配しないで。色々学校の準備もあるでしょう。きちんと回るように人を手配してくれたし、ついでにあの夜空グループの社員から経営のアドバイスも貰えて、助かっているくらいだよ。はははは』
店長の口ぶりからは喜びが伝わってきて、ほっとしたのだった。
星夜が聞いてくる。
「勉強が好きなのか? 塾や予備校にでも通って、もっと勉強するか」
「いえっ、いいです。別に勉強が好きなわけではないんです……」
私はあわてて言った。
「好きでもないことを、毎日しているのか。ゆっくり過ごしてよいと言っているのに」
「せっかく学校に行けるから……。私はただでさえ犬に変身するってハンデがありますから……できることは、全部やっておきたいんです」
「ふむ。では家庭教師をつけようか。夜澄島には学業に関して優秀な人材も多い。この俺が直々に教えてやってもいい」
「いえ、そんな、もうこんな贅沢な環境をいただいていて。充分です。これ以上甘えるわけにはいきません」
星夜に頼めば、何でも叶ってしまうのだろう……。
でもだからこそ、私はこれ以上、甘えたくない。
自分の望み通りになる環境を手に入れたからといって、甘えまくっていたら――自分の足で立っているとは、言えないから。
「おまえは面白いな、歌子。どうも俺の知ってる人間とは異なる。骨があり、勤勉で、つつましい」
あれ? 「おまえ」って言われた。
人間のときの私のことは「貴様」って呼んでいなかったっけ。
犬のすがたの私には、おまえって言ってたけど……。
「それに、まるで犬のようにがんばり屋だ」
……うん。
褒めてくれるのは、嬉しいのだけれど。
最後の一言さえ、なければなあ……。