夜澄島に戻ると、スーツ姿の鬼神族のみなさんが並んでいて、びしっと迎えられる。
そして家でお姉ちゃんと話しているあいだに、星夜の指示で、すでに私専用の部屋が用意されていた。
星夜と一緒に部屋を見に行く。
私に用意されていたのは、とっても豪華な部屋だった。
広い和室。
でも、星夜の部屋のような純和風ではなくて、和洋折衷のような家具も多い。
素人目から見ても、どの家具もすごく上質でセンスが良い。
大きなモニター。棚には、ブルーレイやDVDがいっぱい。
小説や漫画、雑誌もたっぷりと。
ゲーム機やゲームソフト、パソコン、タブレットも完備されている。
ちょっとあっけにとられながら眺めているうち、私の世代で話題になっているものや、昔からずっと変わらない人気作品が多いことに気がつく。
……私のために用意してくれたのかな。
「……あの、やっぱり、ここまでしてもらわなくても……もったいないです」
「言ったであろう。貴様は、俺に保護される存在だと」
だから、すべて受け取れ、ってことね。
一般庶民として暮らしてきた私には、あんまりにも贅沢な部屋だけど……。
鬼神族や夜澄島の文化を無視するわけにはいかない、と決めたのは私だ。……ここは、素直に受け取っておこう。
そして、特に嬉しかったのは、CDソフトの棚もあったこと。
普通、音楽はサブスクで聴く時代だけれど……。
私はCDショップでのアルバイトを通じて、CDがすっかり好きになっていたのだ。
大きなスピーカーは音質がすごく良くて、映画館のような臨場感があった。
もちろん、音楽のサブスクもばっちり揃っていて。
その上で、サブスクにある音楽もCDを用意してくれていた。
すごい……。
思わずテンションが上がって、あれやこれやと手に取って見てしまう。
「歌子。嬉しそうだな」
「えっ?」
急に言われて、ちょっと戸惑いながらも星夜を振り返る。
「尻尾がぶんぶん動いている」
――言われてみて、気がついた。
ほんとだ……さっきから……言われてみれば、わさわさと……。
……急に恥ずかしくなって、私はそっとCDを棚に戻した。
「よい。そのまま、CDを見ていろ。尻尾がしゅんとした」
「あの、いちいち言わないでほしいんですけどっ」
これからずっと、尻尾や耳について、星夜にこんな感じで言われるのかな。
なんとも、むずがゆかった……。
ひと通り、部屋を見終わったあと。
今後のことを説明された。
夜澄島の一族の会議で正式な合意が得られてから、私の幽玄学院高等部への編入手続きを行う。
合意が得られるまでには少し時間がかかるという。いま私が夜澄島にいるのは、星夜の強い意志によるものだそうで。
幽玄学院高等部は日本の法律で認められた高校でもあるけれど、あやかしの自治の及ぶ独特な学校でもある。学力やスポーツよりは、種族や家柄、妖力や霊力を重んじるようだった。
呪い持ちの私──鬼神族の「恵みの白犬」と呼ばれるようになった私は既にその条件をクリアしており、入学資格はあるらしい。
「入学まではゆっくり過ごしていればいい。足りないものがあったら言え」
ゆっくり過ごしていればいい、って言われても。
さすがに、何の準備もなく入学するのはちょっと落ち着かない。
明日には完全な人間の身体に戻れるから……。
「あの……明日、出かけてきてもいいですか?」
「なぜだ?」
「教科書や参考書を揃えたくて。久しぶりに高校に通うから、勉強についていけるように予習したいんです」
「勉強のことなら心配しなくていい。学院の教師たちにも事情を知らせ、配慮させよう」
気遣いはありがたいんだけど……。
「私がやりたいんです。自分だけ特別扱いされるのは、嫌です。そのくらいは頑張らせてください」
「……自立心の強い犬だ」
「犬じゃないです、人間ですよ」
「では、骨のある人間だ、と言い換えようか」
「そうです。人間です」
「拗ねるな。耳と尻尾が毛羽だっている」
星夜は優しい顔をしているのだった。
そして、私も……からかわれて悔しいはずなのに……なんだか気持ちがふわふわして、そんなに嫌な気分ではなくて、どうしてだろうと不思議だった。
そして家でお姉ちゃんと話しているあいだに、星夜の指示で、すでに私専用の部屋が用意されていた。
星夜と一緒に部屋を見に行く。
私に用意されていたのは、とっても豪華な部屋だった。
広い和室。
でも、星夜の部屋のような純和風ではなくて、和洋折衷のような家具も多い。
素人目から見ても、どの家具もすごく上質でセンスが良い。
大きなモニター。棚には、ブルーレイやDVDがいっぱい。
小説や漫画、雑誌もたっぷりと。
ゲーム機やゲームソフト、パソコン、タブレットも完備されている。
ちょっとあっけにとられながら眺めているうち、私の世代で話題になっているものや、昔からずっと変わらない人気作品が多いことに気がつく。
……私のために用意してくれたのかな。
「……あの、やっぱり、ここまでしてもらわなくても……もったいないです」
「言ったであろう。貴様は、俺に保護される存在だと」
だから、すべて受け取れ、ってことね。
一般庶民として暮らしてきた私には、あんまりにも贅沢な部屋だけど……。
鬼神族や夜澄島の文化を無視するわけにはいかない、と決めたのは私だ。……ここは、素直に受け取っておこう。
そして、特に嬉しかったのは、CDソフトの棚もあったこと。
普通、音楽はサブスクで聴く時代だけれど……。
私はCDショップでのアルバイトを通じて、CDがすっかり好きになっていたのだ。
大きなスピーカーは音質がすごく良くて、映画館のような臨場感があった。
もちろん、音楽のサブスクもばっちり揃っていて。
その上で、サブスクにある音楽もCDを用意してくれていた。
すごい……。
思わずテンションが上がって、あれやこれやと手に取って見てしまう。
「歌子。嬉しそうだな」
「えっ?」
急に言われて、ちょっと戸惑いながらも星夜を振り返る。
「尻尾がぶんぶん動いている」
――言われてみて、気がついた。
ほんとだ……さっきから……言われてみれば、わさわさと……。
……急に恥ずかしくなって、私はそっとCDを棚に戻した。
「よい。そのまま、CDを見ていろ。尻尾がしゅんとした」
「あの、いちいち言わないでほしいんですけどっ」
これからずっと、尻尾や耳について、星夜にこんな感じで言われるのかな。
なんとも、むずがゆかった……。
ひと通り、部屋を見終わったあと。
今後のことを説明された。
夜澄島の一族の会議で正式な合意が得られてから、私の幽玄学院高等部への編入手続きを行う。
合意が得られるまでには少し時間がかかるという。いま私が夜澄島にいるのは、星夜の強い意志によるものだそうで。
幽玄学院高等部は日本の法律で認められた高校でもあるけれど、あやかしの自治の及ぶ独特な学校でもある。学力やスポーツよりは、種族や家柄、妖力や霊力を重んじるようだった。
呪い持ちの私──鬼神族の「恵みの白犬」と呼ばれるようになった私は既にその条件をクリアしており、入学資格はあるらしい。
「入学まではゆっくり過ごしていればいい。足りないものがあったら言え」
ゆっくり過ごしていればいい、って言われても。
さすがに、何の準備もなく入学するのはちょっと落ち着かない。
明日には完全な人間の身体に戻れるから……。
「あの……明日、出かけてきてもいいですか?」
「なぜだ?」
「教科書や参考書を揃えたくて。久しぶりに高校に通うから、勉強についていけるように予習したいんです」
「勉強のことなら心配しなくていい。学院の教師たちにも事情を知らせ、配慮させよう」
気遣いはありがたいんだけど……。
「私がやりたいんです。自分だけ特別扱いされるのは、嫌です。そのくらいは頑張らせてください」
「……自立心の強い犬だ」
「犬じゃないです、人間ですよ」
「では、骨のある人間だ、と言い換えようか」
「そうです。人間です」
「拗ねるな。耳と尻尾が毛羽だっている」
星夜は優しい顔をしているのだった。
そして、私も……からかわれて悔しいはずなのに……なんだか気持ちがふわふわして、そんなに嫌な気分ではなくて、どうしてだろうと不思議だった。