「お父さんとお母さん、いまはどこにいるの?」
「アマゾンの奥地から、こっちに戻ってきてるはず。だれも足を踏み入れたことのない湖を発見したってはしゃいでたんだけど、歌子が犬に変身したままいなくなっちゃったって聞いたら、お父さんもお母さんもすぐに帰るって――」
「……そっか、心配かけちゃったな」

 私はスマホを出し、お父さんのスマホに電話をかけた。
 ちょうどいま、向こうの国の空港で飛行機を待っていたところだったらしく、知らない言語のざわめきが聞こえる。

 まずは無事だったこと、心配をかけてごめんねということ、そしてアマゾンの奥地の湖の探検を続けてほしいと伝えた。

 いや、歌子が心配だ、とにかくまずは帰ると最初は言い張っていたお父さんとお母さんだったけれど……私は自分の言葉ではっきりと強く、私はもう大丈夫だから、お父さんとお母さんにはアマゾンの奥地の湖を発見してほしいの、と伝えた。

 私もお姉ちゃんも寿太郎も、お父さんとお母さんの仕事を応援している。
 普段はいっしょに過ごせなくても、私たちへの深い愛情を感じるお父さんとお母さんだからこそ、私たちも応援したいと思っているのだ。

 途中で、お姉ちゃんが通話を替わった。

「お父さん、お母さん。歌子も、探検を続けてほしいって言ってることだし。私もついているし、大丈夫。歌子にはよく言い聞かせておくから――」

 声を少し潜めて、お姉ちゃんは廊下へ出て行った。
 説得してくれるのだろう。
 私は立ったまま、そんなお姉ちゃんの後ろ姿を見送る。

 星夜は、なにか妙に感心していた。

「貴様の両親は、探検家なのか」
「はい。世界じゅうを飛び回っていて。アマゾンとか、北極とか、聞いたこともない国とか、ほかにもいろんなところを、あちこち」
「ほう。人間にしては骨がある」
「どういう意味ですか?」
「人間は挑戦をしない生き物であると思っていたが、挑戦をする者もいるのだなと思ってな」
「……あのー、朝も思いましたけど。人間のこと、なんだと思ってるんですか?」
「二度、言わせるな。小狡く、嘘をつき、弱く、逃げる生き物だと言ったはずだ」
「みんな、そうであるわけじゃないですよ」

 普通にしゃべっていたつもりだったのだけれど、気がつくと暮葉さんが顔をしかめている。

「星夜様に、本当に失礼な女だ。あのな。雨宮星夜様は、普通であれば一般庶民が気安くお話をできるような方ではないのだぞ。それを、星夜様のお慈悲があるからといって、調子に乗るではない。星夜様も星夜様です。そのような一般庶民の人間と、軽々しくお話をしないでいただきたいものです」

 しかし星夜は、自信たっぷりに薄く笑った。

「暮葉、貴様、なにを申している? この者は、一般庶民の人間などではない――」

 え?

「俺の、飼い犬だ」

 ……ああ、そういうことね。