星夜と暮葉さんには、リビングの四人がけのダイニングテーブルに並んで座ってもらった。
 客間も、あるにはあるのだけれど……使ってなさすぎて、物置みたいになっている。
 リビングに案内するのが賢明だった。

 帽子が少々窮屈だったので脱ぎ、リビングの帽子用のハンガーにかけておいた。
 犬耳が、思い切り出てしまうけど――家のなかでこの面々だったら、問題ない。

 お姉ちゃんがお茶を準備するのを、私も手伝う。
 星夜はじっと座っていた。暮葉さんは腕時計を何度も見ていた。
 星夜はコーヒーや紅茶よりも日本茶のほうがいいと言うので、緑茶を出す。暮葉さんは何でもいいと言っていたので、星夜と同じものを。

 寿太郎はいない。部活の朝練に行って、そのまま学校のようだった。

 お姉ちゃんは、帰ってこない私のために仕事を休んでくれていたらしい。
 私が犬のすがたになっていると、お姉ちゃんは知っている。そうなると、叶屋歌子として捜索願を出すわけにもいかず、私の友達や近所のひとたちに捜すのをお願いすることもできない。
 私を捜し回るためだけに、仕事を休んでくれていたんだ……。

 今日は私が人間に戻る日だから、もしかしたら家に帰ってくるかもしれないと――早朝からずっと、待ち続けてくれていたのだという。

 私が犬に変身してしまったときに路地裏に置いてきてしまった服と荷物も、家にあった。
 お姉ちゃんが見つけてくれたのかと思いきや、寿太郎がわざわざ近所を歩き回って見つけ出してくれたらしい。

「寿太郎は学校があるし、あの子、部活の大会も近いでしょ。おれも歌子姉ちゃん捜すよって言って聞かなかったんだけど、こういうのは大人の舞子(まいこ)お姉ちゃんに任せなさいって、結構説得するの大変だったんだから。……ふふ、内緒よ?」

 ちょっと意外だった。
 普段は憎らしいだけの弟だけど……いざというときには、私を捜そうという気になるのか。

「お父さんとお母さんもね、仕事を中断して帰ってくるって言ってくれたのよ」
「え、お父さんとお母さんも? っていうか……よく、連絡ついたね」
「それが、すぐに連絡してって書いた手紙がやっと四日前に届いたみたいでね。近くの村まで慌てて引き返してきたらしいんだけど、村に引き返すのに三日かかっちゃったみたいで、昨日やっと電話が来たのよ」

 お父さんとお母さんは、探検家というちょっと珍しい職業をやっている。
 それも、ひとがほとんど立ち入ったことのない秘境を専門としているので、スマホやインターネットが当たり前の時代なのに連絡がつかないこともざらにあるという、なかなかレトロな事情もある。
 スマホの電波が入る場所にいるならばいいのだけれど、そうでないときの連絡手段は基本的に手紙。手紙を届けるひとも秘境でお父さんとお母さんを捜し回るから、なかなかすぐには届かなかったりする。