犬に変身する期間は、満月の日とその前後二日の、まるまる五日間にもわたる。一日目の日没とともに変身し、五日目の明け方に人間に戻れるのだ。
けれども、日没に犬になる日の前日の明け方から、人間の身体に犬の耳と尻尾が生えてくるから――その期間はパーカーのフードや帽子が必須だし、比較的大きな尻尾を隠すのにも、いつも必死。
ちなみに、犬の耳と尻尾は、明け方に人間に戻った翌日の日没まで生えている。
つまり、犬の耳と尻尾が生えている日も含めるならば、月がいちど満ちて欠ける、おおよそ三十日のうち七日を――私は、人間の身体ではなく過ごさなければいけないのだ。
……それは、それなりに、相応に、人生にも影響が出てくるよねっていう。
呪い、が発動したのは小学五年生のとき。
その後、おおよそ月に一度、七日間もの期間まともに外出ができなくなった私は、小学校にも中学校にも、まともに通えなかった。
なりたかった高校生にも、なれなかった。
これまで、隠し続けて生きてきた。
忙しくてほとんど家にいられないお父さんとお母さんの代わりに、私を優しく見守ってくれている大好きなお姉ちゃんからも、いつも言われていた。
私のような、いわゆる「呪い持ち」は――それだけであやかしたちに狙われてしまうから、隠しておかなければならない、って。
呪い持ちと呼ばれる私のような存在はあやかしとなんらか関係があるらしく、喰らえば妖力が高まるとも、力の強いあやかしの生まれ変わりとも言われている。
ともかく、あやかしの力を高めるのは間違いないらしくて。悪意をもったあやかしにさらわれて利用されて、それはそれは恐ろしい目に遭う可能性がある、とお姉ちゃんは言っていた。
私としても、自分が犬になるなんてバレたくない。正直なところ私としては、あやかしがうんぬんというよりも、周囲にバレてからかわれたりいじめられるほうが怖かった。
犬に変身するなんて、そもそも恥ずかしいのだ。あいつ、犬になるんだってよー、とか言われ続けて生きるなんて――とっても耐えられない。
だからいままで、犬に変身することを家族以外には隠して生きてきた。
月がまるい時期には家にこもり、犬のすがたのときには不本意ながらお姉ちゃんと弟にお世話をしてもらって静かに過ごした。
でも、でも、それでも。
私は、なんにもしないで家にひきこもっている自分自身を……ゆるせなかった。
だから、月に一週間は休みますという融通の利かないシフトであっても雇ってくれるバイト先を探して。犬になる期間以外はとにかくバイトに励んで、少しずつだけれど、貯金をしていた。
……みんなのように高校に行けなかった悲しみを拭い去るかのように。
でも。
言うまでもなく、バイトは――犬になる期間の前後は慎重になって、犬になったら家にこもって、呪い持ちだということが周囲にバレないようにとにかく注意深く過ごして、という前提のもとで、始めたことだった。
そもそも、お姉ちゃんはずっと心配していた……無理にバイトなんてする必要ないのに、って。
それなのに。……それなのに。
……頭を抱えたいけれど、この身体ではそれさえできない。
やってしまった。……やってしまった。
バイトのシフトを入れすぎて――ついに、外で変身の刻を迎えてしまうなんて愚行を、やらかしてしまった。
けれども、日没に犬になる日の前日の明け方から、人間の身体に犬の耳と尻尾が生えてくるから――その期間はパーカーのフードや帽子が必須だし、比較的大きな尻尾を隠すのにも、いつも必死。
ちなみに、犬の耳と尻尾は、明け方に人間に戻った翌日の日没まで生えている。
つまり、犬の耳と尻尾が生えている日も含めるならば、月がいちど満ちて欠ける、おおよそ三十日のうち七日を――私は、人間の身体ではなく過ごさなければいけないのだ。
……それは、それなりに、相応に、人生にも影響が出てくるよねっていう。
呪い、が発動したのは小学五年生のとき。
その後、おおよそ月に一度、七日間もの期間まともに外出ができなくなった私は、小学校にも中学校にも、まともに通えなかった。
なりたかった高校生にも、なれなかった。
これまで、隠し続けて生きてきた。
忙しくてほとんど家にいられないお父さんとお母さんの代わりに、私を優しく見守ってくれている大好きなお姉ちゃんからも、いつも言われていた。
私のような、いわゆる「呪い持ち」は――それだけであやかしたちに狙われてしまうから、隠しておかなければならない、って。
呪い持ちと呼ばれる私のような存在はあやかしとなんらか関係があるらしく、喰らえば妖力が高まるとも、力の強いあやかしの生まれ変わりとも言われている。
ともかく、あやかしの力を高めるのは間違いないらしくて。悪意をもったあやかしにさらわれて利用されて、それはそれは恐ろしい目に遭う可能性がある、とお姉ちゃんは言っていた。
私としても、自分が犬になるなんてバレたくない。正直なところ私としては、あやかしがうんぬんというよりも、周囲にバレてからかわれたりいじめられるほうが怖かった。
犬に変身するなんて、そもそも恥ずかしいのだ。あいつ、犬になるんだってよー、とか言われ続けて生きるなんて――とっても耐えられない。
だからいままで、犬に変身することを家族以外には隠して生きてきた。
月がまるい時期には家にこもり、犬のすがたのときには不本意ながらお姉ちゃんと弟にお世話をしてもらって静かに過ごした。
でも、でも、それでも。
私は、なんにもしないで家にひきこもっている自分自身を……ゆるせなかった。
だから、月に一週間は休みますという融通の利かないシフトであっても雇ってくれるバイト先を探して。犬になる期間以外はとにかくバイトに励んで、少しずつだけれど、貯金をしていた。
……みんなのように高校に行けなかった悲しみを拭い去るかのように。
でも。
言うまでもなく、バイトは――犬になる期間の前後は慎重になって、犬になったら家にこもって、呪い持ちだということが周囲にバレないようにとにかく注意深く過ごして、という前提のもとで、始めたことだった。
そもそも、お姉ちゃんはずっと心配していた……無理にバイトなんてする必要ないのに、って。
それなのに。……それなのに。
……頭を抱えたいけれど、この身体ではそれさえできない。
やってしまった。……やってしまった。
バイトのシフトを入れすぎて――ついに、外で変身の刻を迎えてしまうなんて愚行を、やらかしてしまった。