「こんにちはー。あなたが、星夜様の愛するわんちゃんですね? 昼間、あなたのお世話をする夕樹です。よろしくね」

 大きな風呂敷を持って星夜と入れ違いに現れたのは、ボーイッシュな同年代の女性だった。
 ちょっと予想外。

 耳にかかる程度のショートカット。
 明るい黄色の下地に木々の枝を思わせる茶色い模様の、動きやすそうな甚平を着ていた。

 夕樹さんはしゃがみ込んで、笑顔でよしよしと私の頭を撫でる。

「可愛いね。その首輪、星夜様がくださったの? いい水色だね。似合ってるよ」

 夕樹さんは部屋の隅に風呂敷を置いて座り、思い切り伸びをする。

「あー、学校休みでよかったー。おまけに星夜様のわんちゃんのお世話をしていればいいなんて、ついてる。わんちゃんは可愛いから、ただのご褒美! あなたのおかげだよー、星夜様に拾われてくれて、ありがとうね」

 このひとも……鬼神族の一員、なんだよね……?
 鬼神らしくないというか、明るい感じのひとだ……。

 そして、このひとは何にも悪くないのだけど。
 ……学校。
 その言葉が、ちくりと、胸に刺さる。

 ……私はしょぼんとしてしまった。

「あれ。尻尾がしゅんとしちゃったね。元気、ないの?」

 犬の尻尾。ほんと、感情と一緒に動きすぎる。
 ごまかすようにひらひら横に尻尾を振ってみたけれど……。

「遊ぶ? えーっと、たしかおにぎりの奥に」

 夕樹さんは荷物のなかから、何かを取り出す。
 それは、ゴムでできた赤いボールだった。

「わんちゃんならみんな大好き、ボール!」

 私は思わず固まった。

 ボール遊び。
 たしかに、それは犬との遊びの定番だ。

 だけど私は、やったことがない。
 私の心が人間だと知らないひとたちと接するのは、そもそも初めてなのだ。

 夕樹さんは片手でボールをわきわきと握る。

「よーし、遊ぼうっ」

 私は、どう遊べばいいのだろうか……。

 そんなとき。
 暮葉さんが、ばたばたばた、と急いでやってきて、すごい勢いで障子を開け放った。