五時になって。
 CDショップの店長は、一時間も残ってくれたのだからもう帰っていいよと言ってくれた。
 しかし夕方の店舗はどう見ても異常に忙しく、予想外にバイトがふたりもいなくなってしまったせいで、私がいなくなって店長ひとりだと大混乱になることは容易に予想がついた。

 もちろん、わかっていた――今日の日没は、午後六時半ごろだと。
 私はきっと、お言葉に甘えて帰るべきだったのだろう。

 けれど、更にあと一時間は残れますと言って残ってしまった。
 私はシフトに柔軟に対応できないから、店長やほかのバイトのひとたちに日頃ほんとうに迷惑をかけてしまっているのだ――できることは、できるときにしたい、と思ってしまった。
 意気込んでしまった。

 ……十六歳にもなって、融通の利かないシフトでバイトをすることくらいしかできない自分自身に、焦っていたのもたしかだ。
 自立したい。せめて稼ぎたい。そんな思いで、今月は、たくさんたくさんシフトを入れてしまった――今日みたいな、肝心の日の前日、……危ない日にまで。

「急がなきゃ……」

 つぶやいて、脚を動かす。バイト先から走りっぱなしの脚は、わりともう限界だ。けれど止まるわけにはいかない。ここで倒れるわけにはいかないのに……。

 現実は、非情だった。

 太陽が完全に、世界から隠れたのだろう。
 私はいつもの、全身がかっと熱をもつような、強烈な予兆を感じた。
 だから、とりあえず路地裏に駆け込んだ。

 ――まずい、ほんとに、まずい。

 視界が、ぐん、と低くなる。さっきは見下ろすほどの高さだった、ゴミを回収するためのブルーの箱が、自分の背丈よりも高くなる。
 さっきまで着ていた服はもう着られない。自分の服に埋もれるようなかたちになった私は、服のなかからもぞもぞと抜け出した。
 においが、急に鮮やかになる。嗅覚が段違いによくなったのだ。

 自分の身体を見下ろす。
 白くてもふもふの前足、白くてもふもふの胸毛。

 路地裏で宵の空へ向けて、頭を上げた私は――いまやどこからどう見ても、真っ白で大きなもふもふの、一匹の犬だろう。

 私は、……わけのわからない、呪いとやらのせいで。
 およそ月に一度――犬の身体に変身して、過ごさなければならない体質なのだ。