はあ、と暮葉さんは大きなため息をついた。

「わかっていらっしゃるのであれば、犬を拾ってくるのは今後いっさい慎んでいただきたいものですね。わたくしがいままでいったい幾人の方々に、星夜様の拾ってきてしまった飼い主のいない犬たちの里親をお願いしたとお思いですか?」
「……十八回、だろうか」
「おっしゃる通りでございます。つまり今回、その白い大きな犬で星夜様が犬を拾ってこられたのはなんと、十九回目!」

 十八回。
 捨て犬なんて、そうそう見かけないご時世だ。ひょいと拾うような機会がそこまで多いわけでもないだろう。
 そんな世界でも、雨宮星夜は捨て犬に気がつく。
 そして、自分の家の子にしたいと、願う。

 そのたびにこうやって、飼うことを反対されてきたのだろうか。

「里親を探すというのも、なかなかに骨が折れるのです。星夜様がどうしてもとおっしゃいますので、間違いなく犬を幸せにする里親ばかりを探し当てておりますので」

 まあ、たしかに、十八匹ぶんの犬の里親を探すとなると……それはなかなかに、大変だろう。

 と、いうか。暮葉さんが里親を探してあげてるんだ。
 眼鏡で堅物っぽい暮葉さんが、真面目くさった顔で犬を抱きかかえて里親を探す絵面が浮かんできてしまって、ちょっとおかしな気持ちになった。

「里親に出した犬たちのその後も連絡を送らせております。星夜様に日頃からご確認していただいている通り、里親に出した十八匹のうち一匹たりとて、不幸そうな犬はおりませんでした。その上、星夜様がどうしてもとおっしゃるので、お忍びで犬カフェに行かれることにも、われわれ星夜様のおそばの者たち全力で協力させていただいている所存です」

 けっこう、まわりのひとたちも頑張っている、のだろうけれど。

「そもそも、べつに飼わずともよろしいではありませんか。里親から近況を聞くことのできる縁ある犬が、十八匹もいる。犬カフェにも通えていらっしゃる。それなのになぜ、飼うことに、そこまで執着なさるのです」
「貴様は、まったくわかっていない。むろん犬というのはその存在だけで尊い。しかし……犬好きであればだれしもが一度は、自分の家の子をお迎えしたいと夢見るものだ」
「はあ……そういうものですか」

 暮葉さんは、まったくピンときていないようだったけれど……私はちょっとだけ、雨宮星夜の気持ちがわかる気がした。

 自分の家の犬を飼いたい、ってところではない。
 自分がしたいことは、したいのであって、似たかたちで誤魔化したところで結局は……自分の望むようには、満たされないのだ。