吾妻橋での戦いは、結局、ふわりふわりと上空で生き残っていた飛空仙のひとことで、終結。
「……雨宮星夜。永久花は、もうやられた。やめようではないか。こちらの負けだ」
鬼神族の勝どきで、橋が沸いた。
星夜は、鬼神のみなさんに言う。
私を抱きかかえたまま――。
「みな、力が高まったことを感じただろう。それは歌子がいてこそ――そして歌子は、戦場での激しい戦いを耐えうるほど、強くなった! 宝剣を持ち、鬼神の力を高める、まさしく恵みの白犬だ!」
鬼神のみなさんは、口々に私のことをたたえる……。
なんだか、照れるな。
ここまで褒め称えられると……。
すこしだけ、未来の話をするならば――。
私はその後、夜澄島の一員として正式に迎え入れられることになる。
幽玄学院でも舐められることは一切なくなり。
メディアなんかでも有名人――ではなく、有名犬になって。
まあ、家族はものすごくびっくりさせちゃったけど……。
お姉ちゃんは散々心配してくれたけれど、きちんと説明したら、本当のことがわかってよかった、と言ってくれた。
「それに、歌子……犬であることを受け入れるなんて、そんな発想、私にはなかったから。……星夜様に出会えてよかったね」
夜澄島に引っ越す件については、お父さんとお母さんが帰ってきてから話すらしいけれど、いまのところはこのまま入谷で暮らすつもりらしい。
寿太郎が転校するのを嫌がっているらしく……。
でも、星夜様にはみんな本当に感謝してるの、と伝えてくれた。
アルバイトでは、星夜に相談の上、有名犬であることを生かして看板犬になった。
私の正体を知らない店長は最初めちゃくちゃびっくりしていたけれど、結果、店は大繁盛……。
たこれこ浅草橋駅前店は、たこれこでも一番の売り上げを誇る有名店になった。
「忙しすぎて……もう……目が回るよ……」
でも、たまに人間のすがたでシフトに出ると、店長も他のアルバイトのひとたちも相変わらずで、やっぱり店が私の居場所のひとつであることは変わりなかった。
そうやって、犬であること、人間であること、どちらも使いこなす日常にはなったけど……。
私はもう、自分自身があやかしでも人間でも――こだわらなくなった。
自由に犬に変身して、鬼神の霊力を高めることのできる私は、やがて「鬼神」という名前に倣うかのように「犬神」と呼ばれ始めるのだけれど――だから、そのことも、私にはあんまり関係のないことだった。
そして。
強すぎれば――争いは、生まれない。
そのことを、私と星夜は後につくづくと体感する。
小競り合いのような争いが、皆無になったのだ……。
本格的な戦争の兆しも、なくなった。
それが良いことか悪いことかは、わからないけれど……。
私と星夜がふたりでいることで、あやかしたちの争いをとりあえず止められるのは、事実のようだった。
だから……私は、星夜に愛されてもよい存在として、鬼神族から認められることになる。
……私にとって大事なのは、ただひとつ。
星夜と、一緒にいること。
そして、その未来は、かなう。
……でもまだ、それらは未来でしかない夕暮れ。
穏やかに暮れていく、とろりとした夜の帳のなかで。
吾妻橋で。
星夜に抱きかかえられて。
私は……星夜と一緒に、これから夜澄島へ帰る。
「歌子。おまえは本当にいい子だ」
星夜は、やっぱり、はにかむような笑顔を見せてくれた。
私も、星夜が好き、大好き、愛してるって――。
言葉では。人間になったときに、伝えよう。
「――愛している。犬のおまえも、人間のおまえも、すべて。もう離さない。これからずっと、一緒にいてくれ」
私は星夜の頬を、そっと舐めた。
これからずっと一緒にいようね、って気持ちを込めて。
星夜はそんな私の頭を、いつも、撫でてくれるのだ。
(完)
「……雨宮星夜。永久花は、もうやられた。やめようではないか。こちらの負けだ」
鬼神族の勝どきで、橋が沸いた。
星夜は、鬼神のみなさんに言う。
私を抱きかかえたまま――。
「みな、力が高まったことを感じただろう。それは歌子がいてこそ――そして歌子は、戦場での激しい戦いを耐えうるほど、強くなった! 宝剣を持ち、鬼神の力を高める、まさしく恵みの白犬だ!」
鬼神のみなさんは、口々に私のことをたたえる……。
なんだか、照れるな。
ここまで褒め称えられると……。
すこしだけ、未来の話をするならば――。
私はその後、夜澄島の一員として正式に迎え入れられることになる。
幽玄学院でも舐められることは一切なくなり。
メディアなんかでも有名人――ではなく、有名犬になって。
まあ、家族はものすごくびっくりさせちゃったけど……。
お姉ちゃんは散々心配してくれたけれど、きちんと説明したら、本当のことがわかってよかった、と言ってくれた。
「それに、歌子……犬であることを受け入れるなんて、そんな発想、私にはなかったから。……星夜様に出会えてよかったね」
夜澄島に引っ越す件については、お父さんとお母さんが帰ってきてから話すらしいけれど、いまのところはこのまま入谷で暮らすつもりらしい。
寿太郎が転校するのを嫌がっているらしく……。
でも、星夜様にはみんな本当に感謝してるの、と伝えてくれた。
アルバイトでは、星夜に相談の上、有名犬であることを生かして看板犬になった。
私の正体を知らない店長は最初めちゃくちゃびっくりしていたけれど、結果、店は大繁盛……。
たこれこ浅草橋駅前店は、たこれこでも一番の売り上げを誇る有名店になった。
「忙しすぎて……もう……目が回るよ……」
でも、たまに人間のすがたでシフトに出ると、店長も他のアルバイトのひとたちも相変わらずで、やっぱり店が私の居場所のひとつであることは変わりなかった。
そうやって、犬であること、人間であること、どちらも使いこなす日常にはなったけど……。
私はもう、自分自身があやかしでも人間でも――こだわらなくなった。
自由に犬に変身して、鬼神の霊力を高めることのできる私は、やがて「鬼神」という名前に倣うかのように「犬神」と呼ばれ始めるのだけれど――だから、そのことも、私にはあんまり関係のないことだった。
そして。
強すぎれば――争いは、生まれない。
そのことを、私と星夜は後につくづくと体感する。
小競り合いのような争いが、皆無になったのだ……。
本格的な戦争の兆しも、なくなった。
それが良いことか悪いことかは、わからないけれど……。
私と星夜がふたりでいることで、あやかしたちの争いをとりあえず止められるのは、事実のようだった。
だから……私は、星夜に愛されてもよい存在として、鬼神族から認められることになる。
……私にとって大事なのは、ただひとつ。
星夜と、一緒にいること。
そして、その未来は、かなう。
……でもまだ、それらは未来でしかない夕暮れ。
穏やかに暮れていく、とろりとした夜の帳のなかで。
吾妻橋で。
星夜に抱きかかえられて。
私は……星夜と一緒に、これから夜澄島へ帰る。
「歌子。おまえは本当にいい子だ」
星夜は、やっぱり、はにかむような笑顔を見せてくれた。
私も、星夜が好き、大好き、愛してるって――。
言葉では。人間になったときに、伝えよう。
「――愛している。犬のおまえも、人間のおまえも、すべて。もう離さない。これからずっと、一緒にいてくれ」
私は星夜の頬を、そっと舐めた。
これからずっと一緒にいようね、って気持ちを込めて。
星夜はそんな私の頭を、いつも、撫でてくれるのだ。
(完)