カタカタカタとパソコンのキーボードを叩く音が響いてるあさひの部屋。
地べたにぺたんと座りながらローテーブルの上に置いたパソコンとずっとにらめっこしているあさひの前で、クマのぬいるぐみを膝の上に置いてぼーっとその姿を見ていた。

今日もあさひは忙しそうだ。


「…あさひ、飲み物とかいる?」

「ううん、いらない」

「お菓子は!いる?」

「いらない」


…忙しそうだ。
険しい顔が物語っている。

ぬいぐるみが好きなあさひはオレの膝の上にいるクマのぬいぐるみ以外にもベッドにたくさん並べてある。その横の壁には好きなアイドルのポスター、隣の本棚には漫画がぎゅうぎゅうに敷き詰められている。

そんな中でパソコンに向かって仕事してるってなんか違和感だ…


「ねぇ、あさひ」

「んー?」

「何か欲しいものないの?」


オレにできることはこれくらい、だから聞いてみたんだけどオレにはこれくらいもできない答えが帰って来た。


「休みかな」


それはあげられるものじゃない。

今からあさひの会社の社長にはなれないしなぁ…

帰ってって言わない優しいあさひの邪魔をしないように息をひそめ、本棚の漫画に手を伸ばした。


「あっ!!」


あさひが叫んだ。
ビクッとなって肩が震えた。


「な、何?どうしたの…?」

「その漫画…!」

「え?」


オレが手に持った漫画を指さした。


「それ今めっちゃ良い展開なの!読んで!」

「……うん、読む!」


急にパァっと表情を輝かせた。

やばい、笑うなオレ。

ここで笑ったらあさひの集中力が切れる…!

漫画でニヤける顔を隠した。


「ね、超良い展開だったでしょ!」

「わかる、まさかあそこで全部ひっくり返ると思わなかった!」

「でしょ!完全に想像の上!!誰も予想出来ないよ~!」


すっかりパソコンを叩く手は止まっていた。


「それで、そのあとのキュン的展開…!あそこが最高なの♡♡」


ついオレまで楽しくなっちゃって、うんうんと話を聞いて頷いた。


「それでね…っ」

「?」

「いや、話してる場合じゃないんだった…!やばい、久しぶりだったから夢中になっちゃった!」


頭を抱えてあさひが俯いた。

きっとやばいのはオレの方…!

いい加減、帰らないとあさひが危ない。
パソコンの音はひたすらにカタカタ鳴っていたけど、急にダンッと力強く押されて無音になる時間があった。あれはたぶん書いた文章を消してた。

これ以上ここにいたらいけない…と、立ち上がろうとした時だった。


―コンコンッ