「はぁーーーーーっ、好きな奴だって!」

「別にいいだろ」

「うわー、恥ずかしい~!」
 

ケラケラと笑ってる太陽に、何とも思わなかったわけじゃないけどおれは間違ったこと言ってないしわざわざ返すのもやめた。

太陽なんか放っておいて、教室へ行こうとして1つ思い出した。


"それきっと太陽くんも美羽ちゃんも好きなんだよ"


「なぁ、太陽」

「は、なんだよ」

「太陽は美羽のこと好きなの?」

「はぁ!?」


耳がキーンってなるぐらい大きな声に顔をしかめた。


「そんなわけないだろ!好きじゃねぇよ、全然好きじゃない!美羽のことなんか…!」


めちゃくちゃ顔を赤くして、すごい顔でムキになって返して来た。

さっきまでヘラヘラしてたのに、急に眉毛吊り上げちゃってさ。

ふーん、違うのか。

なんだ違うじゃんあさひ、やっぱあさひもわかってねぇな。全然好きじゃないんだってさ。


「おはよ~、碧斗!太陽!」

「美羽…!」


真っ赤な顔した太陽がまたでっかい声を出した。声を出すたび、ビックリする。


「おはよう、美羽」

「おはよう」

「あれ、今日…」


いつもはふわっとした長い髪を2つに束ねているのに、今日は丁寧にみつあみが編まれていた。
普段と少し違うだけなのに、なんだか全然違って見えた。   


「かわいいじゃん」


素直にそう思ったから言ってみた。   


「碧斗、ほんと?ありが…っ」

「そうか!?普通だろ!なんなら普通以下だろ!!」


微笑む美羽の声をかき消すように、何倍も大きな声の太陽が言い放った。

その瞬間、しーんっとない音が廊下に響いた。

おれも美羽もつい黙ってしまい、太陽でさえ驚くような顔をしていた。


「…!」

「美羽っ!!」


次の瞬間、美羽が走り出した。

美羽との身長差はあまりない、だからちゃんと見えていた。

美羽の瞳から零れ落ちる涙を。


「………。」

「……。」
 

おれも太陽もその場から動けなかった。

一気に重い空気になる。 

どうにも気まずそうな太陽がおろおろとうろたえていた。だったらせめて追いかけてやるべきだったのに。


「お前最低だな」


あさひのあの言葉が思い出される。


"素直になれないだけじゃない?"


「おれは太陽が美羽のことどう思ってんのか知らねーけど、"好きな子"泣かすなんて最低だと思う」