よかったと、凛も心から思う。自分が夜血の持ち主だと判明する前は、家族たちからずっと冷たくされていた。

『お前なんか生まれたせいで』『なんでうちに来たの』『お姉ちゃんのせいで、親戚からハブられてるんだよ!』なんて暴言を毎日のように吐かれていた。

 凛は生まれつき両の瞳が深紅の色をしていた。人間にはほぼあり得ない色を。しかし、あやかしではよくある瞳の色だ。

 その上、両親とも日本人らしい黒髪で、肌は薄橙色(うすだいだいいろ)なのに対し、凛の髪はほんのり茶色がかっており、肌も雪のように白かった。

 それらの特徴は人間の中で稀有というほどではないはずだが、両親の遺伝子を無視した凛の外見は、周囲からますます異質に映った。

 そのため、凛の母親はあやかしとの子を成したのではないか、凛には悪いあやかしが()りついているのではないかとか、親族の間では(うわさ)された。

 もともと家柄のよかった父方の親族からは、体裁が悪いと言われ絶縁状態となった。父の兄弟たちは実家から多額の援助を受けて豪邸に住んでいるにもかかわらず、凛の父親はその恩恵をいっさい受けられなくなったのだった。

 その結果、凛の一家は貧乏……とまではいかなかったが、本来できるはずの贅沢(ぜいたく)な暮らしからは程遠い、サラリーマンである父親の平均的な年収だけが頼りの平々凡々な生活を送ることになってしまった。

 両親は、凛の出生によって険悪な関係となり、一時は離婚寸前まで()めたらしい。しかし妹の蘭が生まれ、彼女をかわいがることで仲を取り戻したのだと、凛は嫌味交じりで両親から聞いたことがある。