しかし凛はさほど落ち込まなかった。

 日常茶飯事だからという理由ももちろんあったが、桔梗の花束を眺めると、空腹も虚しさも、その時だけ忘れることができたのだ。

 しかし家族に見つかったら捨てられてしまうので、花瓶に飾ることなどは(かな)わない。ポケットに忍ばせておいた桔梗はすぐに枯れてしまった。

 なぜかその時、凛は生まれて初めて深い喪失感を味わったのだった。