そう自分自身に言い聞かせる。

 しかし、『凛。今日から君と俺は夫婦だ』と宣言した時の伊吹の朗らかで優しい微笑みを思い出すと、凛にはどうしても、鬼の若殿が自分を本当に花嫁として愛そうとしているのではないかという考えが捨てきれなかった。



 入浴の後、凛は国茂が用意してくれた桔梗柄の浴衣に着替えた。

 浴衣の着付けは、母や妹を着付けるためにひと通り知っていた。しかし、凛が浴衣を着る機会など夜血の乙女と発覚するまでは与えられなかったし、発覚後は発覚後で他人に着付けられることになったので、自分自身で着用するための浴衣の着付けは、少々苦労した。

 人を着付けるのと自分で着るのとでは、かなり勝手が違ったのだ。

 なんとか不格好には見えないように浴衣を着てから脱衣所を出る。

 入浴後は、事前に案内されていた寝室へと来るよう伊吹に言われていた。つまり、夫婦の寝室だ。

 凛の足取りが少し重くなる。

 一応、新婚初夜という状況だ。今から起こりえることについては一応知識としては知っている。

 生まれながらにして疎まれてきた自分は、男性に見初められた経験などもちろんない。だからこの後のことを想像すると、少し緊張してしまう。

 とはいえ、拒否をすることなど凛の頭にはなかった。

 鬼の若殿に捧げられた身なのだから、伊吹が自分の体に望むことを拒む権利などあろうはずもないのだ。

 ――血を吸わないとなると、女性として求められる可能性は高いよね。夜血以外の自分の利用価値など、それくらいのものだもの。

 寝室の前にたどり着き、(ふすま)をゆっくりと開ける。