「なんだよー、幻想って! 人間の女の子はめっちゃキュートなんだぞ!? 服だって化粧だってセンスいいし、あやかしと違ってお高く留まってる子も少ないし! つーか、伊吹だって凛ちゃんを嫁にもらってるんだから、人間女子かわいい派なんだろ!?」
「は? 俺は凛だからだ。別に人間だのあやかしだので決めてないよ」

 はっきりと断言する伊吹に、凛は眉をひそめた。

 ――『凛だから』って、どうして? だって私は夜血を持つということ以外、ただの人間なはずなのに。

 そもそも伊吹とも出会ったばかりだ。それなのに『凛だから』と、伊吹が自分を選ぶ理由がとんと思いつかなかった。

「あー、そうですかお熱いですねっ! ねえ凛ちゃん。伊吹やめて俺にしなーい?」
「おい! 凛は俺の嫁だと言っているだろうがっ。そろそろ怒るぞ!」
「あは。なんだよ冗談だって。もう伊吹は頭硬いなあ」

 悪戯(いたずら)っぽく微笑む鞍馬に、伊吹は不機嫌そうに眉をひそめる。

「いや、絶対あわよくばと狙っているだろお前。……そうだ、凛はこれから風呂に入るんだった。もう鞍馬はどっか行けよ」
「あー、そうだったの? じゃあ凛ちゃん、またねー!」

 困惑している凛に向かって鞍馬は満面の笑みを浮かべると、手を振って、来た廊下を戻っていった。

「なんだかすまない凛。騒がしい奴で。まあ、あれでも心根は優しい奴だから」

 伊吹は少し申し訳なさそうに言った。

「あ……。いえ、大丈夫です」

 前衛的な鞍馬の考え方は確かに凛を驚かせた。

 だが、伊吹が『凛だから』と自分を嫁にした件について理由づけたことに対しての方が、やはり戸惑いが大きい。