予想外の展開にたじたじになっていた凛はやっと口を開く。

 すると伊吹は、苦笑を浮かべながらこう答える。

「ああ、すまない凛。紹介が遅れたね。こいつは俺の弟の鞍馬だ。母親が違うから、鞍馬は鬼ではなくて天狗(てんぐ)のあやかしなんだけれど。この屋敷に一緒に住んでいるんだ」
「凛ちゃんって言うのか! 名前までかわいいなあ~。というわけで、俺鞍馬! よろしくねっ」
「あ……。はい、よろしくお願い、します……」

 鬼ではなくて天狗のあやかしか。見た目はふたりとも人間とほぼ変わらないから、そう言われても『そうなんだ』と凛は納得するしかない。

 だが、確か天狗は人間の肉も血も食べない種族だったはず。ならば、凛の血が欲しいわけではないようだ。

 ――私が人間であることに興味があるのは、本当に人間の女の子がかわいいって思っているからなの?

 そう考えた凛が鞍馬をじっと見つめると、彼は照れたように笑う。

「いやー、そんなに見られると恥ずかしいなあ。あ、もしかして俺のかっこよさに気づいた?」
「そんなわけないだろう、馬鹿。凛、聞いてわかる通り、鞍馬は人間に対して深く興味がある奴なんだ。最近の若いあやかしには多いんだけど、人間の服飾や文化の流行を追うのが好きで、特に人間の女子に並々ならぬ幻想を抱いているんだよ」
「はあ……」

 まさか、鞍馬のように人間の文化を好むあやかしが多く存在するなんて、と凛は意外に感じる。

 人間もあやかしも、若者は柔軟な考えなのだろうか。

 伊吹の言葉を聞いた鞍馬は、ムッとしたような面持ちになった。