「しかし、血は争えないねえ」

 国茂は不敵に微笑むと、伊吹に意味深に言う。

 伊吹はそれにはなにも答えずに、草履を脱いで玄関から上がった。

「おいで」と声をかけられたので、凛も慌てて草履を脱ぐ。

「凛、その花嫁衣装はとてもかわいらしいが、疲れるだろう。体も冷えてしまったようだし。とりあえず風呂に入っては」
「お風呂ですか……。わかりました」

 いまだに、鬼に血を吸われることなく自分が生きていて、屋敷に迎えられている現実についていけていない凛は、とにかく伊吹の言われるがままにしかできない。

「お風呂ね。うん、用意しといたからすぐに入れるよ」
「ありがとう、国茂」

 そんな会話を国茂と交わし、伊吹は廊下を進んだ。

 凛は慌てて後を追うが、伊吹が思ったよりもゆっくり歩いていたのか、足元が危うい色打掛でも悠々とついていくことができた。

 ――私に歩調を合わせてくれているのかな。そうだとしたら、なんて気配り上手なあやかしなのだろう。

 本当に彼は鬼なのだろうかと、またまた凛は思ってしまう。

 浴室の前にたどり着き、伊吹が足を止めた。

「ここだよ。それなりに広いから、ふたりで入っても余裕だと思う」
「そうなのですか……え、ふ、ふたり!?」

 ずっと他人事のように事態を見守っていた凛も、さすがに驚いて叫んでしまう。

 ――ふ、ふたりでって。この人、一緒にお風呂に入る気なの!?

「あ、あの待ってください。まさか伊吹さん、私と一緒にお風呂に……?」
「そうだが? 夫婦なのだから、当然だろう」

 本当にさも当然のように、きょとんとして伊吹は言う。