――なんて綺麗な人……じゃなくて、あやかし。

 大きく切れ長の瞳は濃い紅色の光を煌々(こうこう)と宿していて、その美しさに一瞬で見惚(みほ)れてしまった。

 形のよい鼻梁(びりょう)に、薄いがどこかなまめかしい唇は、大人の男性の色気を醸し出している。陶器のように滑らかそうな素肌にはシミひとつ見当たらない。

 鬼が見目麗しい生き物だということは人間界でも常識だ。凛ももちろん存じていたが、まさかこれほどまでとは。

 神様が『最高に美しい生物を作り上げてみよう』と決起し、苦心して作り上げたのが鬼だと言われても、納得がいく。

 だが、凛を驚かせたのは彼の美しさだけではなかった。

 恐ろしい形相だった般若の面の奥に潜んでいたのは、あまりにも優しい微笑みだった。

 彼は目を細めて、愛おしむように凛を見ている。まるで心から愛している家族や恋人を眺めるかのように。

 ――鬼って怖いあやかしなんじゃなかったっけ? それに、彼はこの後私の血を吸うんだよね?

 あやかしと友好な関係を築きつつある現代でも、昔から言い伝えられているおとぎ話は各地に残っている。

 それらに登場する鬼は、人を襲ったり(だま)したりと、人間が恐れおののく対象でしかない。

 また、凛がテレビで見たことのある鬼たちは、美しかったが皆、冷たい表情をしていた覚えがある。

 だからそんなイメージの鬼にこんなに優しく微笑まれて、凛は戸惑ってしまった。

「すまない。君が寒かったようだから、急いで連れてきてしまったよ」

 洞窟内で聞いたのと同じ、透き通るような美声で鬼は言う。