台湾館の入り口の横には、大きな葉を広げたバナナの木が植えられていた。よく見ると、青い実を付けている。それを横目に建物の中に入った紅華は、

「わあ!」

 と、思わず声を上げた。建物の中に、畑が作られている。紅華は、自分の背丈ほどもある稲のような植物を見上げ、

「これは何て言う植物なんやろか」

 と、小首を傾げた。

「サトウキビですね。砂糖の原料になる植物ですよ。汁が甘いのです」

「お砂糖の……」

 敦の説明に「そうなんどすか」と、感心する。
 サトウキビ畑は衆目を集めていて、人だかりができている。紅華が熱心にサトウキビを見ていると、男性に体をぶつけられ、よろめいた。敦が素早く紅華の華奢な肩を支え、

「ここは人が多い。先へ行きましょう」

 と、促した。

 サトウキビ畑の横には、精巧な木工品や竹細工、籐細工が展示されていた。

「あの籠、可愛らしなぁ」

 着物にも似合いそうな籐細工の籠を目に留め、物欲しそうな顔をした紅華に、

「工芸品を売る売店もあるようですよ」

 と、敦が教えてくれる。

 竹細工で作られた鳥かごの中には、鮮やかな色合いの鳥が入れられていて、軽やかな鳴き声を上げている。

 皮革製品や装身具など、たくさんの工芸品を眺めながら進むと、おいしそうな香りが漂ってきた。

「なんや、ええ匂いがします。食事処でもあるんやろか」

「台湾料理の屋台があると聞きましたよ」

 敦に連れられて行くと、仮設の食事処ができていた。床几に座る人々は、紅華が食べたことのない外国の料理をつついている。

「おいしそうどすなぁ」

 思わずお腹がぐぅと鳴り、そう漏らすと、敦がくすっと笑い、

「食べてみますか? ごちそうしますよ」

 と、聞いてきた。本音では食べてみたいと思ったが、さすがに、出会ったばかりの学生相手に食事をさせてもらうのは気が引けて、首を振る。

「それなら……。少しここで待っていて下さい」

 敦は、遠慮している紅華を残すと、この場を離れて行った。周囲は家族連れで賑わっている。自分だけがこの世に一人きりのような気分になり、不安な気持ちでいると、

「お待たせしました」

 敦が足早に戻ってきた。手に、二本のバナナを持っている。

「台湾バナナです。あちらで売っていたので」

「もろて、ええんどすか?」

「はい。紅華さん、お腹が空いていそうでしたので」

 敦に指摘され、紅華は頬を赤らめた。差し出されたバナナを受け取り、皮を剥く。甘い香りが鼻腔をくすぐり、紅華は小さな口を開けた。

「おいしい!」

 よく売れたバナナはねっとりとした食感で、とても甘い。

「それは良かった」

 敦もバナナの皮を剥くと、ぱくりと口に入れた。