舞が終わった後、紅華は、敦のそばに行って何か話をしたいと思ったが、紅華より先に小絲が敦に近寄り、お酌をした。「ありがとうございます」とお礼を言われ、小絲の耳が赤くなっている。その様子を見ていると、何やら胸の中がじりじりとして、紅華はいても立ってもいられない気持ちになった。けれど、小絲を押しのけて敦の隣に行くわけにもいかず、他の学生たちに話しかけられるままに、愛想良く微笑んでいた。
宴席は盛り上がり、教授たちはこのまま雑魚寝を決め込むことにしたらしい。「和藤内」「金比羅船々」と様々なお座敷遊びで盛り上がった後、疲れてうとうとし始めた教授と、酔った学生たちが先に眠ってしまった。
舞妓と芸妓たちは、隣の部屋で男衆が持って来てくれた着物に着替えると、それぞれに布団に入った。若者たちと同じ部屋で眠ることに、小絲は興奮している様子だったが、念のためと、襦袢を足首で結んで横になった。紅華も「一応」と襦袢を結んでから横になったものの、部屋から皆の寝息が聞こえてきても寝付けない。同じ部屋に敦がいるということに、どうしても緊張してしまう。
(鳥羽様はもう眠らはったやろか)
何枚かの布団を隔てた向こう側に横になっているはずの敦のことを想う。
(寝顔を見たいやなんて、うちははしたない女やろか)
敦の寝顔はきっと美しいに違いない。そう思ったら我慢ができなくなり、紅華はそっと起き上がった。四つん這いになり、静かに敦の元へと近寄る。
(ああ、やっぱり、お綺麗な寝顔や)
そばで見ると、やはり敦の顔立ちは整っていて、人形のようにさえ見える。それでいて弱々しくはなく、少年と青年の狭間のような魅力があった。
(長いまつげやなぁ……)
両手を畳につき、顔をのぞき込んでいると、ふいに、ぱっと敦の目が開いた。
「……!」
紅華は驚いて身を引き、袖で顔を覆った。男性の寝顔を見つめていたなんて、恥ずかしくて、穴があったら入りたい。
「紅華さん」
敦は身を起こすと、静かな声で紅華の名を呼んだ。返事もできずに固まっている紅華に、
「すみません。実は起きていました」
敦は申し訳なさそうに謝った。
「え……」
少しだけ袖をずらし、敦の顔を見ると、敦は微苦笑を浮かべている。
宴席は盛り上がり、教授たちはこのまま雑魚寝を決め込むことにしたらしい。「和藤内」「金比羅船々」と様々なお座敷遊びで盛り上がった後、疲れてうとうとし始めた教授と、酔った学生たちが先に眠ってしまった。
舞妓と芸妓たちは、隣の部屋で男衆が持って来てくれた着物に着替えると、それぞれに布団に入った。若者たちと同じ部屋で眠ることに、小絲は興奮している様子だったが、念のためと、襦袢を足首で結んで横になった。紅華も「一応」と襦袢を結んでから横になったものの、部屋から皆の寝息が聞こえてきても寝付けない。同じ部屋に敦がいるということに、どうしても緊張してしまう。
(鳥羽様はもう眠らはったやろか)
何枚かの布団を隔てた向こう側に横になっているはずの敦のことを想う。
(寝顔を見たいやなんて、うちははしたない女やろか)
敦の寝顔はきっと美しいに違いない。そう思ったら我慢ができなくなり、紅華はそっと起き上がった。四つん這いになり、静かに敦の元へと近寄る。
(ああ、やっぱり、お綺麗な寝顔や)
そばで見ると、やはり敦の顔立ちは整っていて、人形のようにさえ見える。それでいて弱々しくはなく、少年と青年の狭間のような魅力があった。
(長いまつげやなぁ……)
両手を畳につき、顔をのぞき込んでいると、ふいに、ぱっと敦の目が開いた。
「……!」
紅華は驚いて身を引き、袖で顔を覆った。男性の寝顔を見つめていたなんて、恥ずかしくて、穴があったら入りたい。
「紅華さん」
敦は身を起こすと、静かな声で紅華の名を呼んだ。返事もできずに固まっている紅華に、
「すみません。実は起きていました」
敦は申し訳なさそうに謝った。
「え……」
少しだけ袖をずらし、敦の顔を見ると、敦は微苦笑を浮かべている。