「はーあ……」

 翔ちゃんに彼女がいると宣言された日から数日が過ぎた。朝からため息が止まらない。少しでも気を抜けば、どんよりとした黒い雲が心の中に広がってゆく。空はこんなに晴れ晴れしているのに、私の心は対照的だ。

「美菜、さっきからため息ばっかり」

 ボーッと外を眺めていると不意に香穂の声が聞こえた。顔を向けると、苦い笑みを浮かべていた。

「だってあれから翔ちゃんと登校できなくなったんだもん……」

 唇を尖らせて、子どものように拗ねる。

 翔ちゃん成分が足りなくてどうかなってしまいそうだ。

「まぁ、それは仕方ないよねー」
「……なんで?」
「彼女ができたら他の子と一緒に登校だなんて普通はできないでしょ」
「他の子って私、幼馴染みだよ?」
「そうかもしれないけどさぁ、いくら幼馴染みだからっていっても女じゃん。彼女がいるのにそんな優しさ振りまく人なんて私なら嫌だなぁ」

 可愛い香穂の口から現れる言葉は辛辣で、私の心に棘を植えていく。

「……じゃあもし彼女が許してくれたら?」
「そんな人実際いないと思うよ。だって好きな人なら自分だけを見てほしいって思うだろうし」

 〝自分だけを見てほしい〟それは事実だ。翔ちゃんには私だけを見てほしいとずっと思っていた。今だってそうだ。

「それはそうかもしれないけどさぁ……」

 今までは翔ちゃんのランキングの一位を独占していた私。これからも変わらずそこに居座ることができると思っていた。それなのに彼女ができたことによって、翔ちゃんの心の中にある優先順位ランキングが変化したんだろう。一番上位にいた私が、二番目になったことによって私に対する接し方もおのずと変化する。

 翔ちゃんらしいっていえばらしいけど、今までの私の居場所が突然現れた人に奪われた。その絶望感は計り知れない。

 だけど、それ以上に私は思う。自分だけを見てくれなくても。一番じゃなくても。

「……私は、それでもいいもん」

 翔ちゃんのそばにいられるなら、何でもいい。
 それが今までのように許されるなら。