「俺の幼馴染みだよ」
機械的に言葉を落とした。
今まで何度も聞いていた〝幼馴染み〟という言葉。耳にタコができるほどに慣れ親しんだ言葉のはずなのに、初めて聞いたかのように少し冷たさを含んでいるようだった。
「えっ、はっ……? 翔平の幼馴染み? こんな可愛い子が……?」
すると、お友達は驚いて目を白黒させて固まった。
「……だから何だよ」
「いや、だってさぁ、こんなに可愛い幼馴染みがいたら普通好きになっちゃうだろ! ならない方がおかしいだろ!」
一気に詰め寄るような勢いで言葉が飛び出した。
目の前でそんなやりとりを続ける二人を見て、固まる私と香穂。だけど、私は気が気じゃなかった。
〝こんなに可愛い幼馴染みがいたら普通好きになっちゃうだろ〟
そんなこと聞いてしまえば、翔ちゃんの言葉が気になるのは当然のこと。
……翔ちゃん、なんて答えるんだろう。
胸がどきどきと早鐘を打つ。
「普通ってなんだよ。おまえの意見だけで一方的に押し付けるなよ」
「じゃあ好きになんないのかよっ!」
「好きだよ、普通に」
翔ちゃんの口から出てきた言葉にどきっと胸を鳴らすと同時に、雷に打たれたような衝撃が身体をめぐる。
……翔ちゃん、私のこと好きなの?
「まぁ俺の好きは幼馴染みとしてっていうか、妹みたいな感じだけどな」
だけど、そんな淡い期待もあっけなく打ち砕かれる。まるでナイフで胸を貫かれたような苦しさが込み上げてくる。
「あ、そっかぁ。そうだったな! 翔平、彼女できたんだったもんな。そりゃあ彼女が一番可愛いだろうなぁ」
「……ほっとけよ」
子どものようにあどけなく笑うと、照れくさそうにそっぽを向いた。
「ったくー、翔平ってば素直じゃねぇなぁ!」
うす雲のような寂しさが心の一面に広がって、じっと目を落としたまま黙り込むと、きゅっと下唇を噛み締めた。