多くの記憶が瓶の栓を抜いたように、次々とそこから溢れてくる。
 それは全部、私にとって大切な思い出であり記憶である。

「ぜったい……絶対に私の方が翔ちゃんのこと好き…なのに……」

 この想いなら、誰にも負けない。

 負けない自信がある。

 それなのに、どうして人生ってうまくいかないんだろう。
 やり場のない苛立ちで、頭の芯がチリチリと音を立てる。

「倉田先輩のことどうするの?」

 そんなの答えは、一つしかない。

「……翔ちゃんを奪い返す……!」

 自信を持って断言するように声を上げた。

 こんなところで落ち込んでいるなんて私らしくない……!

「え、奪う……?!」
「うん!」

 翔ちゃんへの想いは、昨日今日に始まったものなんかじゃない。惚れた腫れたの恋ではないのだ。幼稚園児の頃からもうずっと、片想いをして十年くらいになる。

「だからさ、香穂。お昼休みに翔ちゃんの彼女を見に行こう!」

 ベンチから立ち上がり声を張る。

「……さっきまであんなに落ち込んでたのに」

 雷に打たれたような、呆気にとられた不思議な顔を浮かべた香穂。

「そうだけど、落ち込んでたって何も始まらないし! そもそも私、翔ちゃんの彼女だってまだ認めたわけじゃないもん…!」
「認めるも認めないもべつに関係ないと思うけど……」

 困惑して、苦い笑みを浮かべる香穂。

 翔ちゃんが嘘をつく人だとは思っていないけれど、ほんとに翔ちゃんに〝彼女〟がいるかどうかも怪しいもん。

「とにかくお昼休みに行ってみよう! ね!」

 水を得た魚のように新鮮でハツラツとした気持ちで告げて、香穂の両手を胸の前で掴む。

「……う、うん、まぁいいけど……」

 私の圧力になかば折れる形で頷いた。

 翔ちゃんの彼女、待ってなさいよ……!!

 いつもの私が戻ってきて、感情の曲線が急カーブを描いて上昇した。